8月6日から全国公開中の松竹映画100周年記念作品『キネマの神様』。今作を、映画をこよなく愛するラジオパーソナリティー・増井孝子さんが解説します。
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さすが松竹映画100周年記念作品だけあって、すごい顔ぶれ。監督は、50周年のときも「キネマの天地」を撮った山田洋次。89歳で89作目の映画になる。
原作の原田マハは2006年、43歳で小説家デビュー。数々の文学賞を受賞し、いま最も注目される作家のひとり。本作は、たいへんなギャンブル好き、映画好きの実父を念頭に、ギャンブル依存症の父と失業した娘、壊れかけた家族の話を描いたという。「もし映画化されるなら山田洋次監督に撮ってほしい」と思っていた夢がかなったが、できあがったのは小説とはずいぶん違う映画。それでもその作品は「別のクリエーターによる別のクリエーション」なので、OKなんだとか。
おまけに、山田洋次と朝原雄三が共同で書いた脚本を、原作者自らがノベライズするという前代未聞の試みで、「キネマの神様 ディレクターズ・カット」なる新しいもう一つの神様の物語まで生み出すなど、やっぱり彼女はただものではないのだ。
そしてもちろん、出演者もほんのチョイ役に至るまで、すごい面々が顔をそろえている。
映画が娯楽の中心で、観客総数が年間10億人(1人が年間10本の映画を観た!)という1950年代は、日本映画の黄金時代。撮影所が「夢の工場」と呼ばれていたその時代、山田洋次は松竹に入社した。だから、この映画の若き日のゴウ(菅田将暉)には、山田洋次監督がオーバーラップしてくる部分がある。
親友で映写技師のテラシン(野田洋次郎)、撮影所近くの食堂の看板娘・淑子(永野芽郁)、原節子や田中絹代、岸恵子らを彷彿とさせるスター女優・桂園子(北川景子)らの青春群像を描く過去のパート。
そして50年後の現代。無類のお酒好き、ギャンブル好きで、どうしようもないゴウ(沢田研二)、彼を支える妻の淑子(宮本信子)。娘の歩(寺島しのぶ)は失業しかけのシングルマザーで、その息子の勇太(前田旺志郎)はひきこもり。
ギリギリの状況の中でも映画を愛して止まないゴウが通う名画座“テアトル銀幕”では、館主で盟友のテラシン(小林稔侍)が、いつも温かく迎えてくれる。