作家・村上春樹の短編小説を映画化、監督を濱口竜介が務め、西島秀俊、岡田将生、三浦透子、霧島れいからが出演する『ドライブ・マイ・カー』が全国公開中です。今作を、映画をこよなく愛するラジオパーソナリティー・増井孝子さんが解説します。
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「今年こそはノーベル文学賞を受賞するのではないか」と、毎年、期待され続けている村上春樹。著作の何作かは、今までにも映画化もされている。
短編集『女のいない男たち』(2014)収録の『ドライブ・マイ・カー』に、『木野』と『シェエラザード』のエピソードも交えて、監督の濱口竜介と大江崇允が脚本を書いたこの映画。今年の第74回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、脚本賞のほか国際映画批評家連盟賞など4冠を達成する快挙を果たした。
3時間、正確に言えば179分という長さで、「短編の原作がなぜこんな長尺の映画になるのか?」という疑問と、やはりビートルズの楽曲をタイトルにした『ノルウェイの森』の映画化があまりにも期待外れだったため、「またもやビートルズのタイトルの作品だけど大丈夫か?」という一抹の不安を抱えながら劇場に足を運んだのだが、なんと、これがとても素晴らしかった!
正直、今年の私のBEST5には入るんじゃないかと思う作品。相変わらず、トップは『ノマドランド』なのだけれど、どちらも車が大きな意味を持つ。
今年の第93回アカデミー賞で作品・監督・主演女優賞の3部門でオスカーに輝いた、クロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』。初老の女性(フランシス・マクドーマンド)が身の回りの荷物を積み込んだ車で、季節労働者として町から町を渡り歩く、現代のノマド(遊牧民)としての生きざまを描いた。本物のノマドの人たちが出ていることで、ドキュメンタリーとフィクションの境目のファジーさでも話題を呼んだロードムービー。主人公のファーンが乗る車は“フォード エコライン”だった。
『ドライブ・マイ・カー』で、主人公の舞台俳優・演出家の家福悠介(西島秀俊)が乗っているのは、“サーブ900”だ。サーブはスウェーデンの航空機メーカー。日本ではちょっとマニアックかもしれないが、飛行機のフォルムを応用した独創的なデザインなどで人気だった。原作では黄色のコンバーチブルだが、映画では赤のサンルーフ付きになっていて、サンルーフから手を突き出してタバコを吸うシーンとか、広島から北海道までのロングドライブとか、印象に残る車のシーンが散りばめられている。
車には乗る人の個性や趣味が反映される。そして、ファーンも家福悠介も、古い車を大切に乗っている。そこにはとても思い入れがあることがわかる。たくさんの思い出が詰まっていることもだ。大切なパートナーとの折々がそこにあるからこそ、手放せないでいるのだ。ファーンは経済的理由もあったかもしれないが、家福なら最新の車だって買えたはずなのに、年季の入った車を愛して止まない。未だにカセットテープしかない車で、脚本家の妻・音(霧島れいか)が吹き込んでくれた芝居の台詞を聴きながらドライブする……。