映画ファン、特に洋画ファンはこのアニメの存在を見過ごすわけにはいきません。非常にシネマティックで、映画的で、オールディーズのロマンが詰まった作品です……と、定義の曖昧な言葉ばかりを並べましたが、そこには「映画が好きなあなたの任意の語彙」を当てはめていただければ結構。とにかくこれはアニメであり、映画なのです。
この記事では、映画ライターの筆者が、いま本当に見てほしいアニメ『takt op.Destiny』(タクトオーパス デスティニー)を紹介します。今回はこのアニメの第1話を取り上げて、本作がいかに「ツボを押さえてくれているか」をお伝えします。
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どうやらここは、「音楽が無い世界」「音楽が禁じられた世界」らしい。そこに現れたのは「音楽を知っている青年」の姿。放置されたピアノの鍵盤に指を添え、まるで恋人と踊るかのように楽しげな表情を浮かべて美しい演奏を奏でます。ベートーヴェンの交響曲第5番『運命』第4楽章です。
町がざわめく。彼らは皆、一様に空を仰いで「久方ぶりの音楽」に目を細めます。まるで『ショーシャンクの空に』(1994年)のワンシーンのように。跳ねるような声色で子どもがこう尋ねます。
「ママ、これ何?」
アニメの第1話が始まってからここまで、およそ4分。過不足のない説明で、一瞬で筆者の心はつかまれました。ぼけっと、筆者が感心している隙をついて、ピアノの演奏を背景に遠くで爆煙があがったかと思えば、なんだかモンスターめいたもの(明け透けに言ってしまえば、エヴァンゲリオンの「使徒」的な何か)が暴れて街をかき乱します。
嘘でしょ。洒落たアニメだと思っていたけど、そっちの路線でもあるの?
すると、ここぞとばかりに飛び出してきた謎の少女。彼女に背を向けながら青年が鍵盤を叩きながら呟く。「交響曲第5番 運命」と―。これを合言葉に呼応し、少女は変身して真っ赤にドレスアップ。きらびやかな戦闘シーンが始まります。
川合裕之(かわい・ひろゆき)
1995年生。webマガジン「フラスコ飯店」編集長。『週刊ラジトピ』に出演中。よく道に迷う。