日本伝統の「酒造り」。その様子を、ミニチュアサイズの切り貼り絵で表現した作品の展示会が、いま、日本酒の名産地・神戸「灘五郷」にある施設で開催されている。制作したのは、兵庫県神戸市を拠点に活動する作家・キイロノハサミさん。小さく繊細ながら表情豊かな作品で人気だ。
作品展「ちいさいたのしいすてきなにほん〜日本の手しごと・酒造り〜」の会場は、灘の銘酒「櫻正宗」の施設「櫻宴~櫻正宗記念館~」(神戸市東灘区)。2階の展示室に、新旧合わせて約60点の作品が並ぶ。
酒造りをテーマにした作品作りは、2年前、地元神戸の伝統を形にして自身の作品展で展示したいと考えたのがきっかけ。そして、「白鶴」や「菊正宗」の関係者の協力を得て半年がかりで制作。以降、酒蔵関係者からの声がけが続き、複数の酒蔵でも展示を行ってきた。今回の作品展は、約1年前に櫻正宗側から依頼を受けたもの。櫻正宗では2回目の開催となる。
キイロノハサミさんの「切り貼り絵」は、顔や髪、腕、足などのパーツを画用紙から個別に切り出し、のりで貼り合わせる手作業によって仕上げられる。作家名のキイロノハサミとは、子ども用のハサミのこと。ハサミ片手に、下絵もない画用紙からイメージのままにパーツを切り出す。人のモチーフは、仕上がった時点で背の高さが2~3センチメートル。長さ4~5ミリの手のパーツも、“ひと筆”ならぬ“ひとハサミ”で切り出す。指の細さにいたっては、1ミリに満たないのではないかというほど。あまりの繊細さに、作品展会場には大きなルーペが用意されている。
そんな、ミニチュアレベルの世界で再現された酒造り風景は、写真も合わせて20点展示されている。「こしき」、「蒸し米さまし」、「もとつくり」、「もろみじこみ」などの各工程を、厚みのある額の中に閉じ込めた立体作品は8点。よく見ると、顔の表情から、職人たちが「酒造り唄」を歌っていたり、歯を食いしばっていたりするのが伝わってくる。場面ごとに登場する道具も、ミニチュアサイズながら“本質”を忠実に再現している。桶などの板は、異なる色や地模様の入った紙を組み合わせることで雰囲気を出した。酒蔵資料館を背景に撮影した写真は、作品を一段と味わい深いものにしている。
特に苦労したのは「酒しぼり」の場面だそう。キイロノハサミさんは「(昔ながらの酒造り風景ということで)事実と合っているのかどうか、確認するのが特に難しかったです。展示を見に来てくれた灘五郷の関係者から『大丈夫、合ってますよ』との言葉をいただいて安心しました」と、ほっとした際の気持ちを明かした。