正月に初日の出を見ようと山に登った、神社や寺へ初詣に出かけた、という方も多いと思います。外に出ると、山の風や海の波、神社の鐘、お参りする人たちの声など、いろいろな“環境音”に出会います。最近はスマートフォンでも気軽に録画や録音ができるようになりましたが、そういった機材を使い、スタジオ以外の環境で録音することを「フィールドレコーディング」、「フィールド録音」といいます。
人は普段「音」を聞く時、視覚や嗅覚など複数の感覚機能からの情報と併せて受け止めています。しかし、そこから「音」だけを切り離すと、まったく違うものとして捉えられるようになります。その大きさや距離感、場所の響き、また、日頃気に留めずにいる多くの環境音に気付くこともあります。
フィールドレコーディングされた音は、学術研究から、映画の撮影、今では音楽制作などにも活用されており、身近なところで聴くことができます。
一例に、ラジオ関西(神戸市中央区)のステーションジングル(放送の節目に挿入する短い音楽やフレーズ)があります。「海の見える放送局」と言われるラジオ関西のステーションジングルには、最初に波の音が入っています。聴いた人の頭の中には、波打ち寄せる砂浜など海辺の様子が浮かぶことでしょう。つまり、音を通した空間の演出です。音のみで伝えるラジオ放送では、このように環境音を録音して放送に乗せることで、いろいろな空間を表現することもできます。
同社のある神戸には、六甲山の牧場や遊覧船、中華街「南京町」など、フィールドレコーディングを楽しめる場所が多数あります。例えば、とある遊覧船が港を出るときに鳴らす「銅鑼(ドラ)」の音。スタジオで鳴らして録音したなら単なる楽器音として聞こえるその音に、波の音や船のエンジン音など、周りの環境音が組み合わさると……「遊覧船のドラの音」と認識されます。このように、録音して得られる「音の気付き」がフィールドレコーディングにはあります。
フィールドレコーディングは、音響エンジニアやスタジオエンジニアなど音に携わる仕事をしている人や、音楽や映像の制作、配信などを行うクリエーターにとっては、重要な作業です。自宅のDAWなどを使い、環境音を「音」そのものとして聴くことで「音」への理解が深まるからです。また、マイクの指向性やボリューム感覚を身に付ける良い機会にもなります。
ラジオ放送にもフィールドレコーディングの概念は欠かせません。番組制作にあたって、かつては、ソニー社の「デンスケ」のような大きくて重い機材をあちらこちらへ持ち運んでいました。今は、ZOOM社の「H1n」やTASCAM社の「DR-100MKIII」など、小型で高性能なものも出てきています。専門家が使用することの多いSOUND DEVICES 社「MixPre」シリーズのミキサーレコーダーは、耐久性が高く、寒冷地などの厳しい環境にも耐えることから、心強い存在です。
皆さんも、フィールドレコーディングでさまざまな「音の気付き」を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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【放送音声】2022年1月9日放送回