映画監督の濱口竜介さんが、ラジオ番組『平田オリザの舞台は但馬』(ラジオ関西、木曜午後1時~)に出演。第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)に輝いた最新作『偶然と想像』を軸に、作品づくりの環境や“テキスト論”などさまざまな話題が飛び出した中、平田さんと脚本家同士の意見交換も行われた。
昨年12月から全国で順次公開(※1)されている『偶然と想像』は、文字通り「偶然」と「想像」をテーマに3つの物語が展開するヒューマンドラマ。約40分の短編3本で構成され、ベルリン国際映画祭に加え各国の映画祭でも高い評価を得た。日本では、公開は『ドライブ・マイ・カー』よりも後になったが、撮影は先行して行われていた。濱口さんにとっては『ドライブ・マイ・カー』の準備であり、自身の感覚のメンテナンスも兼ねた作品だったようだ。
演出家で脚本家でもある番組パーソナリティーの平田さんは、開口一番「すごくうまくできている。そして、ずるい(笑)」と評した。続けて「1話目は『強い偶然』ですよね。脚本家にとってどのくらい偶然を利用するのかは、もろ刃の刃。多用しすぎると(物語が)都合よく見えちゃう。でも、タイトルが『偶然と想像』だし、俳優の演技にも助けられて、最後に映画ならではの企みもあって、成立している」と脚本家の視点で語り、「2話目は……失礼な言い方ですけれど、『しょうもない偶然』(笑)。あれだけひっぱって最後に、え? これ? という。でも3本目がね、ドキドキして見るわけです。この並べ方が素晴らしかった」と、作品への賛辞を贈った。
撮影は、1話につきおよそ1週間から10日間程度のリハーサルを経て行われたという。今の映画業界はリハーサルに時間をかけない傾向にあるが「小さなチームで取り組んだからこそできた」と、濱口さんは振り返る。
「ただ“無感情”で何度も本読みをするという、演劇ではそれほど珍しい手法ではないはずなんですが、独特の稽古と言われていて……。でも、セリフというのは、俳優が言いなれない言葉をいうことですし、そもそも話し言葉ではないので、そうして“言える身体”になっておくと現場で反応がしやすくなり、その時に出てくるニュアンスを決定できる。」(濱口さん)
番組では他にも、濱口さんが作品の中で用いることの多いロシアの作家・劇作家、チェーホフ(1860~1904)に話題が及んだ。濱口さんから「『現代のチェーホフ』と評される平田さんは、チェーホフをどう見ているのか?」と質問が飛ぶと、平田さんが「ちゃんとした人が1人も出てこない。変な人だけで芝居が構成される。チェーホフは滅びゆくロシア帝国を描き切った人。しかし面白いのは、そこで生きる人々を愛情をもって描いたこと。僕も見習いたい点です」と答えるなど、時代を牽引する2人の脚本家による活発な意見交換がなされた。
※1 兵庫県内では、宝塚市の「シネ・ピピア」で2022年1月20日(木)まで上映。その他近畿圏では、大阪「シネヌーヴォ」、京都「出町座」、「みなみ会館」で上映中(2022年1月13日現在)。映画館での劇場公開と連動するバーチャル・スクリーン「Reel」では、2022年2月28日(月)まで、通常版ほか、日本語字幕付き、音声ガイド付き、英語字幕版をオンライン鑑賞可能。各劇場の上映日程は、作品の公式サイト・劇場情報でご確認ください。
※ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』2022年1月13日放送回より
【映画『偶然と想像』公式サイト】
※『ラジコ』では放送後1週間はタイムフリーでの聴取が可能。番組では、平田オリザさんが、ともにパーソナリティーを務める田名部真理さんと、これまでの自身の話しや演劇界への思い、移住拠点となっている兵庫・豊岡、但馬地域について、トークを進めていく。
『平田オリザの舞台は但馬』
放送日時:毎週木曜日 13:00~13:25
放送局:ラジオ関西(AM 558khz / FM 91.1mhz)
パーソナリティー:平田オリザ、田名部真理
メール:oriza@jocr.jp