小学生の頃、家庭科の授業で作ったナップザックやエプロン。苦労して作った、初めての裁縫作品がうれしくて、長い間大切に使用していたという方も多いのでは? 最近では、この「家庭科教材キット」にある変化が起きているそうです。全国およそ2万校の小学校で使用されている教材を製造・販売する、株式会社文溪堂の営業部長・河﨑章さんにお話を聞きました。
小学校の家庭科の授業で裁縫を扱うようになったのは、1947年のこと。小学校学習指導要領に、「前掛け作り」という項目が組み込まれ、エプロンを作る授業が行われました。文溪堂が家庭科教材を販売し始めたのは、1973年。それまでは、各家庭で裁縫のための材料や道具を準備することが多かったそうですが、児童みんなが同じ条件で取り組むことができるようにと、「家庭科布教材」が生まれました。
授業に必要な道具が揃うだけでなく、その内容も年々進化しています。はじめは布と型紙のセットだったエプロンキットですが、2002年には布の裏面に型紙がプリントされた仕様に。2011年には、型紙だけでなく作り方やポイントもプリントされ、さらに使いやすくなっているということです。
ナップザックの場合、はじめは薄い布が使用されていましたが、作り終えた完成品に荷物を入れて校外学習などでも使用できるようにと、1987年からは分厚くて丈夫なキルティング生地が採用されています。さらに、縫いしろのマークをつけるための専用のものさしが付属していたり、児童が失敗しやすい、角を折り曲げる作業があらかじめ済んでいたりするキットが登場しました。
河﨑さんによると、「もちろん失敗することも勉強ではあるのですが、家庭科の授業数が減っている中、45分授業の範囲で、すべての児童が作品を完成させられるようにと配慮した結果なんです」とのこと。
また、エプロンやナップザックのデザインにも変化が起こっているようです。文溪堂では、社員の子どもなどにアンケートを取り、いまどんなデザイン・キャラクターが子どもたちに喜ばれるのかを調査しているそうです。その調査などをもとに、毎年4分の1程度のデザインを入れ替えています。
最近の人気の傾向は「落ち着いた色、大人っぽい雰囲気、キャラクターは小さめ」がキーワード。かつては赤や青、黄色、ピンクなどの華やかな色に、ドラゴンやハート、動物などをモチーフにしたわかりやすいデザインが好まれたそうですが、最近では児童たちの好みもある意味ハイセンスになっているのかもしれません。
河﨑さんによると、「家庭科布教材」は裁縫の技術を身に付けるためだけでなく、自分でデザインを選ぶ楽しみや、作品を完成させる喜びを知るためのキットでもあるのだそう。大人になってもワクワクする家庭科布教材、これからの進化にも乞うご期待!
(取材・文=村川千晶)