1970~1980年代にかけての歌謡曲には、現代でもびっくりの大胆な表現が見られました。いわゆる“エロ歌謡”について、音楽評論家の中将タカノリとシンガーソングライター、TikTokerの橋本菜津美が迫ります。
【中将タカノリ(以下「中将」)】 “エロ歌謡”の歴史って結構古くて、レコードが普及し始めた昭和初期にはすでに「エロエロ行進曲」「エロ小唄」とか今思えば笑えるタイトルの楽曲が量産されています。それが戦争の影響とかで一度は撲滅されるんですけど、戦後になると少しずつ復活して1970年代~1980年頃にピークを迎えます。
【橋本菜津美(以下「橋本」)】 私の親世代が若かった頃ですね。おとうさん、おかあさんがそういうの聴いて喜んでたのかと思うと嫌になります……。
【中将】 月亭可朝さんの「嘆きのボイン」(1969)、つボイノリオさんの「金太の大冒険」(1975)のようにお笑い要素が入った曲が有名ですけど、普通の歌手が歌った“エロ歌謡”がこれまたえげつないんです。操洋子さんの「お願い入れて」(1970)なんてタイトルからすでにアレな感じですからね。よく聴くと「お部屋に入れて」と言っているだけなんだけど(笑)。
池亜里沙さんの「鞭で打たれて愛されて」(1973)もすごい。爽やかでちょっとR&Bっぽくて良くできた曲なんだけど、サビの歌い上げが「鞭で打たれて愛されて」なもんだから、まるで昇天しちゃったみたいです(笑)。
【橋本】 めちゃくちゃクセが強いですよね。歌い方がすごく気持ちよさそうだし、もうドM女じゃないですか(笑)。
【中将】 明らかにSM趣味を意識してますよね……。歌詞を渡された池さんがどのような思いでこの曲を歌ったのか気になるところです。
操さん、池さんは当時デビューして間もない若手歌手だったのでレコード会社や作家の思惑に逆らうことはできなかったと思うんですが、当時すでにそこそこキャリアがあった演歌歌手の津田耕次(※現在は津田耕治)さんも「ピクピク節」(1969)という名「エロ歌謡」を残しています。
【橋本】 「竿の長さは 自慢にゃならぬ 腕がものゆう ピクピク人生」……! すごい歌詞!
【中将】 あくまで釣りを歌った歌詞なんですけどね(笑)。でも歌い方がめちゃくちゃうれしそうだし、誰かに強いられたわけではない確信犯的なエロ歌謡だと思います。