小学生の頃に、作文や読書感想文で原稿用紙を使ったことがあると思いますが、真ん中にある、三角形を横に並べたような、特徴的なマークを覚えているでしょうか。当時はあまり何も考えずに見ていましたが、最近改めて原稿用紙を見たときに、これは何か意味があるのだろうかと気になってきました。そう考えていると、400字詰め原稿用紙が一般的ですが、500字の方がきりがいいような気がするのに、なんで400字なのかということも気になりだして……。こうした疑問を解決すべく、数多くの作家から愛される原稿用紙を販売する満寿屋(読み:ますや・東京都台東区)の代表取締役社長、川口昌洋さんにお話をお聞きしました。
満寿屋を運営する株式会社舛屋は明治15年(1882年)創業。原稿用紙のほか、便箋や封筒、ノートなどを製造・販売しています。
まずは、原稿用紙にある、三角形を横に並べたような特徴的なマークについて聞きました。
「このマークは古くから使われているもので、形が魚の尾に似ていることから「魚尾(ぎょび)」と呼ばれています。もともと原稿用紙は半分に折って綴じるものとされていたので、真ん中で折るための目印の役割があります。さらに、魚尾のある柱の部分には作品のタイトルやページ数を書き入む場合もあったようです。昔の名残がこのようなデザインとして残っているのです」
さらに、原稿用紙1枚がなぜ400字なのかも聞いてみました。
「諸説ありますが……昔は印刷をする際に、木を削って文字を彫った『版木』というものを使用し、手で刷っていました。お経を紙に印刷することが多くあったのですが、文字の彫りやすさや読みやすさを考えると、ちょうど良い文字数が20字×20字の400字だったのだと考えられます」
満寿屋の歴史についても聞いてみると、そもそも原稿用紙を作り始めたのは、川口さんのおばあさんが作家・丹羽文雄先生に依頼されたことがきっかけだったそうです。この原稿用紙が評判を呼んでいつしか「文学賞がとれる原稿用紙」とまで言われるようになり、著名な作家も多く愛用。司馬遼太郎さんもその1人だったそうで、オイルショック時に「紙がなくなる」という噂が世間に流れたときには、「原稿用紙がなくては大変だ」ということで5万枚の発注があったのだとか。その他にも川端康成さんや井上靖さん、瀬戸内寂聴さん、阿久悠さんなどそうそうたる面々に親しまれていたそうです。