キャッチコピーは「好きを、つらぬけ。」現在ヒット中の映画『ハケンアニメ!』。今作を、映画をこよなく愛するラジオパーソナリティー・増井孝子さんが解説します。
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日本のアニメの市場は約2.5兆円なんだとか。現在上映中の映画でもテレビでもアニメの占める割合は大きいし、キャラクターグッズの売り上げなども入れると、相当な規模の産業になっているのが分かる。
そのアニメ業界のお仕事ムービーときいて、最初、派遣社員としてアニメにかかわる人たちのお話だと思っていた。ところが、「ハケン」はハケンでも、“派遣”ではなく“覇権”だった。「ハケン」とは、同じクールで作られたたくさんのアニメの中で、一番成功したものに贈られる言葉、つまり「覇権を獲ったアニメ」ということなのだそう。そんなランキングのつけ方、呼び名があることを初めて知った。
原作は2012年に『鍵のない夢を見る』で直木賞に輝いた辻村深月(※1)が、2012年から約2年間、雑誌『anan』で連載し、2014年に書籍化されて本屋大賞3位に輝いた作品。2019年には劇作家・演出家のG2(ジーツー)の演出で舞台化もされている。他にも彼女の作品は、『ツナグ』(2012年)や『朝が来る』(2020年)など映画になっているものも多い。
さてこの『ハケンアニメ』」は、アニメ業界で働く人たちの熱い思いがいっぱい詰まったお仕事ムービーなのだが、彼らが創り出すアニメ作品のグレードが“半端なく”高く、人間ドラマと、アニメ作品の両方がいっぺんに楽しめる映画に仕上がっている。しかも、アニメ業界のみならず、すべての仕事に通じる“あるある”も描かれていて、働いている人たちすべて、これから働こうとする人すべての人が共感するようなお話なのである。
夢をかなえて、公務員からアニメ業界に飛び込み、業界大手の「トウケイ動画」に入社。28歳でやっと大きな仕事を与えられた斎藤瞳(吉岡里帆)。『サウンドバック 奏の石』(通称サバク)での監督デビューを控え、寝る間もないほど制作に打ち込んでいる。