和歌山県では他府県に比べても習字文化が浸透していると言われています。
これは、和歌山県で盛んにおこなわれる行事「競書(きょうしょ)会」が理由だとか。そもそも、競書という言葉が耳慣れない人も多いはず。競書は、「書を競う」という文字から分かるように、習字の腕前を競い合う競技のこと。
じつは、日本には創玄書道会主催の「全国競書大会」や「成田山全国競書大会」といった有名な大会がいくつかあり、全国の学生や社会人が賞を目指して毎年しのぎをけずっています。それが、和歌山県では「県民ならみんな競書会を経験したことがある」といっても過言ではないほど浸透しているんです。
なぜ和歌山県で競書会がとくに盛んにおこなわれているのでしょうか。その背景には、和歌山県出身の書道家・天石東村(あまいし とうそん)氏の存在があります。
天石氏は小中高校の書道教科書の執筆をおこなったほか、日本を代表する美術展「日展」で文部大臣賞を受賞、その後同展で審査員を務めるなどの功績があるスゴイ人。そんな天石氏の尽力もあり、和歌山県内の書道レベルは大幅にアップしたのだとか。
さらに、天石氏は、1948年に「県書道教育連盟」を立ち上げ、同年には第1回の競書会を開催します。そして、1967年からは和歌山市で、市民憲章を広く知ってもらうためにと「和歌山市民憲章硬筆競書会」がはじまりました。
市民憲章とは、その市に住む人々がまちづくりに取り組むための目標や指針のことです。和歌山市の市民憲章は「自然を愛し、きれいなまちをつくりましょう」や「きめごとを守り、人に迷惑をかけない市民になりましょう」などと定められています。同市の競書会では、学年ごとにお手本が定められていて、手本の中には市民憲章の標語を取り入れています。
和歌山市の市民生活課によると、県内の小中学校では、2学期には夏休み明けの競書会、3学期には書初競書会、和歌山市の市民生活課によると、和歌山市の場合は1学期に「和歌山市民憲章硬筆競書会」がおこなわれます。
つまり、和歌山市の小中学生は1年に3回も習字に関する行事に参加しているということに。習字文化が根付くのも納得ですね。
(取材・文=つちだ四郎)