建築やアート、イベントなど様々な分野の専門家が、都市で楽しみながら生活し、まちに介入してその地の魅力を向上させていく。そんな存在を「アーバニスト」と呼ぶ。近年アーバニストは、空き家などの問題を抱える都市利用の担い手として注目を集めている。神戸市長田区では、アーバニストが滞在しながらまちの調査・交流・発信活動を行う「アーバニスト・イン・レジデンス in Nagata」プロジェクトを全国の自治体で初めて実施。10月8日には、長田のまちの特性や魅力などを語るトークイベントを開催する。
市内9区の中で最も高齢化率や空き家率が高く、行政的な課題を多く抱えている長田区では、近年アーティストやクリエイターの活動により、まちの賑わいづくりに繋がるケースが増えてきている。そんな長田のまちの課題を調査・発信するため、9月16日からアーバニストが滞在する「アーバニスト・イン・レジデンス」事業がスタートした。
今回のプロジェクトで「アーバニスト」として長田に滞在する杉田真理子さんと石川由佳子さんは、一般社団法人for Citiesで建築やまちづくり分野でのリサーチや企画・編集、展示会や教育プログラムの開発を行う。for Citiesの意味は「都市の為の」。その活動は国内外に及び、「都市」の日常を豊かにすることを目的とし活動している。仙台市出身の杉田さんは、アーバニストの活動を行う上で東日本大震災の発生に大きく影響を受け、都市デザインや都市社会学、都市設計の大切さをより感じるようになったという。
アーバニストという言葉は社会学者のルイス・ワースが広めた「アーバニズム」の考えから紐づけられ生まれた。昨年には『アーバニスト ―魅力ある都市の創生者たち』という書籍も出版され、注目されつつある。アーバニストの意味は、都市における生活様式の在り方など解釈は様々だが、杉田さんは「都市に住みながら都市の日常を作っている人たち。与えられた空間にただ受動的に住むだけではなく、自分たちでまちに手を加えて活動を起こしていく人たち」と考え、まちづくりに連想される建築家や都市計画家などの硬いイメージではなく、市民やアーティストなど、様々な人がアーバニストになり得るという。石川さんは「クリエーターやアーティストが、まちを自分たちの表現の舞台として使いこなしていくことで、日常を変えていくという現象が各地で起こっている。アーティストの活動がまちの風景を変えていくこともある」と語る。
長田でのアーバニストの活動拠点は、同市長田区東尻池町の商店街跡地、かつて魚屋だった廃墟を再生し今春に完成した工房「ヒガシシリコンバレー」だ。市内の様々な廃墟や空き家の改修も行う「西村組」が手掛けた建物で、神戸市営地下鉄 海岸線 苅藻駅から徒歩10分の場所にあり、戦後、鉄道で使われていた石畳を移植した通りにあるのが特徴的だ。石川さんは「長田は山と海とまちが近い空間にあり、独特のコミュニティがある。日常のあたりまえの中に、多国籍で多文化が存在するのが刺激的だ」と話す。
アーバニストは10月8日まで、約3週間の滞在期間で、長田のまちの課題を調査する。OPEN DAYには滞在場所のヒガシシリコンバレーを開放し、交流の機会を設ける。日時は10月1日(土曜)14時から17時と、10月5日(水曜)19時から22時で、活動に興味を持った人が自由に訪れ、アーバニストと交流することが出来る。また二人の他にも様々な国内外のアーバニストがイベントやワークショップを行う予定だ。10月8日(土曜) には新長田合同庁舎1階で、リサーチを通して見えてきた長田のまちについてのトークショーを開催予定。
神戸市長田区総務部まちづくり課 平野陽子さんは「長田区は高齢化や空き家問題で取り沙汰されることが多いが、クリエーターやアーティストなど素晴らしい活動をしている人もたくさんいる。そんな長田のまちで、アーバニストの方々にまちを楽しんでもらい、魅力を発見してもらい、感じた事を発信してほしい」と話す。
※ラジオ関西『サンデー神戸』2022年9月25日放送回より
◇「アーバニスト・イン・レジデンス in Nagata」について
【神戸市:全国自治体初!アーバニスト・イン・レジデンスin Nagataの実施~都市は住むだけでなく、使いこなし楽しむ時代へ~】
【『サンデー神戸』番組HP】