コロナ禍以降、外でアルコールを飲む機会が少なくなくなり、世の中では「家飲み」が定着したように思える。筆者自身も同じくで、いまやすっかり家飲み派である。
ある日、自宅での晩酌中のことである。空になったビールの缶を、ぼんやり眺めていた。
アレっ? ……些細なことに気がついた。プルタブ式の飲み口部分が左右対象ではないのだ。いそいでほかのビール缶を確認すると、すべての飲み口が「左右非対称」であった。
これはどういう意味があるのだろうか? しだいに気になってきた筆者は、ビール製造・販売メーカー『アサヒビール』(東京都墨田区)で容器の開発研究にたずさわる黒田さんにくわしい話をきいてみた。
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「よく皆さんがおっしゃられている『プルタブ』ですが、現在採用されているタブは『ステイオンタブ』といいます。プルタブは昔の方式で、開缶すると缶から切り離されるものを指します。対してステイオンタブは開缶後もタブが残ります。後者を導入しはじめたのは1990年ごろからだったと記憶していますね」(黒田さん)
飲み口部分がマイナーチェンジしていたとは正直おどろきだ。この変化が「飲み口の左右非対称」となんらかの関係があるのだろうか? 話は本題へと迫る……。
「ステイオンタブ導入をきっかけに『飲み口の左右非対称』は採用されました。飲み口が左右対称だと、開缶時の力がフタ全体に分散し、非常に開けにくくなってしまうのです。非対称にすると一点に力を集中させられるため、少ない力でも開けられるのです」(黒田さん)
これまで何も気にすることなく缶ビールを開けていたが、「左右非対称」という小さな工夫と技術によって「より開けやすく」なっていたのだ!
「左右非対称」の謎はとけたものの、さらに気になるポイントが出てきた。タブが“時計回り”に開く理由である。
「右きき人口の割合が多いことに由来しています」(黒田さん)
なんともシンプルな回答だ。黒田さんいわく、過去には反時計回りで開くフタも存在したそう。しかし「右ききが大多数」とのことから次第に淘汰されていったのでは……と推測しているという。今や右きき大前提の缶ばかりのため、「なぜだか分からないが開けにくい」と思っている人は、もしかすると左ききが多いのかも。
缶の技術の進化がわかる「缶ビールの歴史」についても教えてもらった。
「今や家庭で飲むビールは缶を購入される方がほとんどだと思いますが、日本初の缶ビールを発売したのはアサヒビールなんです。1958年に発売された『アサヒゴールド』は缶切りで三角形の穴を2つ開けて飲む商品でした。そして、1965年に缶切り不要のプルトップ缶、1971年には指にかかりやすいリングプルトップ缶を発売しました」(黒田さん)