いつも電話でネクタイを注文されるお客様との素敵なエピソードがTwitterに投稿され、話題になりました。投稿したのは、ネクタイのオリジナルブランド「SHAKUNONE(笏の音)」を手がける、株式会社笏本縫製の代表・笏本達宏さん(@shakunone)です。笏本さんは、「もう辞めてしまおうかと思っていた時に起きた、一生忘れられない体験でした」と語ります。
ずっと不思議だった。いつも電話で注文くださるお客様。なんでネットじゃないんだろう?と思ってた。デパートの催し場でお会いしたときに理由がわかった。白い杖をつきサポートをされながら歩いてる。視覚に障害がある方だった。思わず「なんでいつもウチを選んでくださるんですか?」と聞いたところ…
— しゃく (@shakunone) October 3, 2022
以下、笏本さんに聞いたエピソードの詳細です。
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モノをネットで買うのが当たり前の時代になり、「SHAKUNONE」でもオンラインショップを運営していますが、いつも電話で注文をくださるお客様がいました。それ自体は時々あることですが、通常はネットで見た商品に対して、「このネクタイをください」「あのデザインのあの色がほしいです」といった、具体的な相談をされることがほとんどです。
ところが、そのお客様はいつも少し変わった電話の内容で、特定の商品ではなく、「こんなシャツに合うネクタイを…」「オススメのデザインを…」のように抽象的な相談をくださる方でした。しかも最終的には商品を目で確認することなく、電話でのやり取りだけで購入されていました。
そんな中、また同じように注文の電話をくださった際に、「次にイベントの予定はありますか?」と聞かれました。直近で開催予定のあった大阪の百貨店の催事日時をお伝えしたところ、当日、まっすぐうちのブースに来てくださる男性の姿があり、そのお客様でした。
電話注文の仕方をずっと不思議に思っていましたが、初めてお会いして、その理由がわかりました。白い杖を持ち、介助者の方にサポートされながら歩いてこられ、視力に障害があるお客様だったと知りました。思い返せば失礼な質問だったのかもしれませんが、その時思わず、「なんでいつもうちのネクタイを選んでくださるんですか?」と聞いてしまいました。
すると、「目が見えていた時からネクタイが好きなんです。カッコイイから。今はもう”デザイン”も”色”も誰かに説明をしてもらわないとわからないけど、生地や縫製の良さは人一倍わかるんです。だから選んでいます。今日はどうしても作り手さんに会いたくて来ました」と答えてくださいました。
祖母の代から続く小さな縫製工場を母から継ぎましたが、受注依存の体質や、景気の低迷から納品単価は上がらず、原材料等の経費も高騰し、ここ近年は赤字が続いていました。やることなすこと上手くいかず、投げ出して辞めてしまおうかとも思っていた時でしたが、このお客様の言葉を聞いて、今までの全てが報われたような気持ちになり、初めて現場で涙をこらえました。翌日会社に戻って、社員にこの話を伝えたところ、涙を流す職人もいました。