石見神楽が盛んな島根県浜田市。お祭り以外に、普段からイベントなどでも演じられている。そんな石見神楽に欠かせないのが「石見神楽面」だ。そこで、今年創業50周年となる「柿田勝郎面工房」二代目の石見神楽面職人・柿田兼志氏に話を聞いた。
石見神楽の歴史は古く、平安末期~室町時代頃からあると言われている。現在でも島根県西部の石見地方は神楽が盛んで、江戸時代までは、神社の神主たちが各地をまわり神楽を舞っていた。しかし、明治に入ると新政府による神職演舞禁止令などの宗教政策により、神楽の舞手が神主から氏子などの民間へと移った。それにより、石見各地に神楽の団体が次々と結成されていった。
それはやがて中国地方にまで広がり、現在、石見地方から広島県にかけて同じ形態を持つ神楽団が400も存在する。その団体の多くが使っているのが石見神楽面だ。
石見神楽面は、強くて粘りのある楮(こうぞ)で作られた石州和紙のお面。まず、粘土でお面の原型を作り、乾燥させた後、柿渋入りの糊で和紙を何重にも貼り合わせる。厚さは、3~5ミリメートルほどになるという。そして、原型の粘土を一つ一つ壊して、お面に色を付け、毛を植えるなどして仕上げていく。普通の神楽面は、原型の粘土を壊さずに作るので、これはとても珍しい作り方だという。原型の粘土を壊すことで、複雑で細かい部分も作ることができる。複雑な模様の場合、粘土を壊さなければ原型から上手に和紙が外れないのだ。これが石見神楽面の大きな特徴の一つである。
もう一つの特徴は、「和紙で作る」ということ。江戸時代までは木彫りだったが、明治時代になって神楽の舞手が民間人になると、たくさんの社中ができたことで舞手が急増し、お面なども足りなくなった。そこで、浜田市の伝統工芸品である「長浜人形」の人形師に相談したところ、アップテンポの石見神楽に対応できるよう、軽くて丈夫なうえ、量産できるようにするには和紙で作るのが良いだろうということになり、名産の石州和紙で作るようになったのだ。平均すると、1つ作るのに1か月ほどかかるが、大体、複数個を3か月ほどかけて作るという。オーダーメイドのお面だと、1つに半年ほどかかるそうだ。
浜田市が発祥の石見神楽面。近年は神楽舞だけでなく、新築祝や記念品として贈られたり、海外や秋篠宮家、ブータン国王などに献上品としておさめられたりしている。
浜田市相生町にある大祭天石門彦神社(通称・三宮神社)では、「浜田の夜神楽」と題して、毎週土曜日の午後8時から石見神楽の公演を行っている。料金は1,000円、定員70人の予約制。