ノーベル賞作家カズオ・イシグロが脚本を書き、黒澤明の名作『生きる』をリメイクしました。人間の生きがいとは何かを問いかける、映画『生きるLIVING』が3月31日(金)、公開されます。
物語の舞台は1953年のイギリスです。第二次世界大戦のあと、まだ復興途上にあるロンドン。主人公は市役所に務める公務員のウィリアムズです。
彼は毎日毎日、同じ列車の同じ車両に乗って通勤し、市民課の課長として決められた時間に事務作業をして自宅に帰る単調で無気力な生活を送っています。妻には20年以上前に先立たれました。家には息子夫婦が同居していますが家族として幸せを感じることはなく、自分の人生は無意味で虚しいと思っていました。
ある日、医者がウィリアムズに言います。
「ウィリアムズさん、検査結果が出ました。お伝えしにくいのですが……」
ウィリアムズは癌だと判りました。余命半年、長くて9か月だと医者から告げられました。
「そうですか」
ウィリアムズは落ち着いた口調で返事をして、家に帰りました。
息子たちに検査結果を伝えようとしますが、会話のタイミングが合わず、うまくいきません。彼が抱える孤独感はますます大きくなりました。
ウィリアムズは無断で仕事を休み、海辺のリゾート地へ出かけます。そこで出会った青年に教えてもらいながら、酒を飲み歩いて羽目を外そうとしますが、うまくなじめません。そこでロンドンに戻ります。
市役所に着くと、かつて彼の下で働いていたマーガレットとばったり再会しました。彼女は役所を辞め、カフェで働いています。社会で自分の力を試そうというバイタリティーに満ちていました。ウィリアムズはマーガレットを食事に誘います。ウィリアムズは躊躇しながらも、自分の命が残り少ないことを彼女に話します。
「生きることなく人生を終えたくない」