ラテンアメリカの「民衆芸術」 色とりどりの手工芸品から多様性を学ぶ 国立民族学博物館 | ラジトピ ラジオ関西トピックス

ラテンアメリカの「民衆芸術」 色とりどりの手工芸品から多様性を学ぶ 国立民族学博物館

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 会場に足を踏み入れると、色とりどりのさまざまな物が並んでいる。おもちゃや楽器、ポンチョや帽子、陶器など、いずれもラテンアメリカで民衆が作ったものだ。ラテンアメリカでは、民衆のつくる洗練された手工芸品を「民衆芸術」と呼ぶ。北はメキシコから南はアルゼンチンまでの、古代の遺物から現代の作品約400点を集めた特別展「ラテンアメリカの民衆芸術」が、大阪府吹田市の国立民族学博物館で開かれている。2023年5月30日(火)まで。

展示風景 中央:祭用楽器(マトラカ) / ボリビア多民族国
展示風景 中央:祭用楽器(マトラカ) / ボリビア多民族国
牛車(模型) / コスタリカ共和国
牛車(模型) / コスタリカ共和国 牛車はかつて収穫したコーヒー豆の運搬に使われていたが、20世紀初めから鮮やかな塗装を施すようになり、実用品から装飾品へと変化した。

 ラテンアメリカの民衆芸術は、なぜこれほどまでに多様なのか。特別展では、先住民族の文化がコロンブスの航海以降、外来者の文化と出会い、互いに影響しあいながら造形表現を形成したこと、政府が国民文化を高揚する手段として手工芸品に着目し、民衆芸術と命名して芸術としての評価を確立しようとしたこと、そして現代の制作者による批判精神の表現、この3つの意味から探っていく。

 メキシコ北西部の先住民族ウイチョルの毛糸絵は、板に毛糸を張り付けて同民族の神話的モチーフを描いている。もともとは宗教儀礼用具だったが、1960年代からは芸術作品として洗練され、商品(土産物)としても作られるようになった。

毛糸絵 / メキシコ合衆国
毛糸絵 / メキシコ合衆国
モラ(飾り布) / パナマ共和国
モラ(飾り布) / パナマ共和国

 パナマの先住民族グナの女性たちが作る飾り布モラ。異なる色の布を重ね、上の布を切り抜いて下の色を出すリバースアップリケという技法を用いている。観光用に売られることもあるが、グナ自身はブラウスに仕立てたりする。

 メキシコのオアハカ州で作られる木彫。会場には「ヤギのナワル」と「コヨーテのナワル」が並ぶ。ナワルとは動物に変身するシャーマンを意味する。

 実行委員長をつとめる国立民族学博物館の鈴木紀教授が、「今回の特別展のテーマがぎゅっと詰まった作品」というレタブロ。レタブロとはペルーの箱型の祭壇で、1940年代からは宗教的なテーマだけでなく日常の情景が描かれるようになった。この作品には人々のくらしの様子や「レタブロの工房」などが表現されている。

木彫(ヤギのナワル) / メキシコ合衆国
木彫(ヤギのナワル) / メキシコ合衆国
レタブロ(民衆芸術家の工房) / ペルー共和国
レタブロ(民衆芸術家の工房) / ペルー共和国

 20世紀後半のラテンアメリカでは、チリでクーデターが起き、メキシコでは政府に対する批判が高まるなどして、民主化や人権尊重を訴える市民運動が活発化した。暴力を記憶し、権力による弾圧に抵抗するために政治的なメッセージを込めた作品が作られるようになった。カラフルな色づかいなどから一見するとカワイイと思えるようなものでも、爆撃機や帰らない家族の顔を掲げる女性たちが描かれている。 

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