岡山県の北東部、鳥取県との県境にある奈義町は2019年の合計特殊出生率が2.95となり、子育て支援に力を入れている町として注目されたのは記憶に新しい。シンボルでもある那岐山の裾野に横たわるようにゆったりと広がる奈義町には特徴的な風が吹くという。この風景に魅力され「麓の自然とよりそうような美術館をつくりたい」と言った人がいた。世界的な建築家・磯崎新さん(2022年12月没)だ。その言葉通り、磯崎さんがデザイン・設計したのが『奈義町現代美術館』である。
常設展では3つの体感型の空間作品を半永久的に展示。それぞれ「大地」「月」「太陽」という自然物から名付けられており、一瞬一瞬で移り変わる奈義町の自然を作品を通して体感できる。鑑賞者は作品空間の中に入り、作品を「観る」のではなく「五感で感じる」のだ。
現在、企画展として「高山夏希展-気色の目」を開催中。東京在住の現代美術家・高山夏希氏による展覧会で、注射器でアクリル絵具を絞り出して描いたり、また絵具を何度も重ねてできた層を彫刻刀で削ることで生まれる有機的にも見える色相が特徴。作品テーマは「人間と動物との環境が一体化したような世界観」だという。
同館の学芸員・遠山さんは「作家の高山夏希さんは最近では作品が映画に使われるなど、活躍の幅を広げていらっしゃいます。複雑な色相の中にある、生き物の気配を感じていただけたら」と話した。
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1994年、世界でも類を見ない美術館として誕生した『奈義町現代美術館』。開館当時、磯崎さんは現在の館長にこう言ったという。
「世界のどこにもない美術館なのでさまざまな意見があると思うが、10年経てば他にも同じような美術館ができる。そうすれば奈義町現代美術館は現代美術館の先駆けとして評価される日がきます」
その言葉はいまや現実のものとなっているようだ。2023年現在、インスタ効果もあり入館者が増大。ゴールデンウィークは700人を超える日もあったそう。あらためて建築家・磯崎さんの先見性に驚かされる。
※ラジオ関⻄『羽川英樹 ハッスル!』2023年5⽉25⽇放送より
◆奈義町現代美術館
公式ホームページ
◾️企画展「高山夏希展-気色の目」