神戸ゆかりの画家、金山平三(1883~1964年)の創作の軌跡を新たな視点でたどる展覧会「出会いと、旅と、人生と。ある画家の肖像 日本近代洋画家の巨匠 金山平三と同時代の画家たち」が兵庫県立美術館(神戸市中央区)で開かれている。7月23日(日)まで。(※イベントは終了しました)
同美術館は、前身の兵庫県立近代美術館時代、遺族らから、金山の全作品の約半数にあたる五百数十点の寄贈を受けた。それらの作品は、過去の金山展や常設展示で公開されてきたが、今展は「従来型の回顧展ではなく、新しい視点で作品を集めた」(林洋子館長)内容となっており、多彩な金山作品とともに、同時代の画家による優品も紹介している。計約150点。
展示は、「センパイ、トモダチ」「壁画への道」「画家と身体―動きを追いかけて」「生命への眼差し」「列車を乗り継いで―風景画家の旅」の5章立てで構成。
金山は神戸・元町に生まれ、東京美術学校(現在の東京藝術大)を主席で卒業した。最初の展示室には、卒業時に制作した4つの絵画のうち「自画像」(1909年、東京藝術大学蔵)、「秋の庭」(同年、兵庫県立美術館蔵)、「漁夫」(同年、東京藝術大学蔵)の3点がある(1点は現存しない)。中でも「自画像」は、鼻までメガネをずり下げた若い男性のまっすぐな眼差しが印象的な秀作だ。
目玉の1つは、初公開の「祭り」(1915~1934年ごろ、個人蔵)。西田桐子学芸員は「目の前にあるものを描く風景画家のイメージがある金山が、海外で見た風俗を日本に帰ってきてから再構成して作品にしている点がめずらしい」と指摘する。同作は、金山の画集にもこれまで掲載がなかった作品で、見つかった際、作中の人物によく似たデッサンが金山のスケッチブック(同美術館蔵)にあったことなどから、金山作品と分かったという。
日清戦争の平壌戦を題材とした壁画作品の画稿も。明治神宮聖徳記念絵画館を飾る80面の壁画の1面として委嘱を受け、足かけ9年を費やし制作、1933(昭和8)年、完成品が同館に収められた。金山は実際の戦いの様子を当時の軍人らに取材、その日の天候まで調べて作品に反映させたという。実在した参謀が馬上で体をひねり、命令を出す様子やへたり込む兵隊の姿などを描き、臨場感に富んだ画面に仕上げている。
そのほか、芝居の各場面を精密な観察眼で切り取った「芝居絵」シリーズ、花をはじめとする、身の周りにある品をみずみずしい筆致で描いた多様な静物画なども見どころ。さらに最終章では、山や海、湖などの情感溢れる風景画とともに、妻に宛てた絵はがきを手がかりにその具体的な写生ルートもひもといており、金山と一緒に日本各地を旅している心地になれる。
西田学芸員は「さまざまな技法、また色の作り方も非常に上手な画家。お気に入りの作品を見つけて、近寄ったり、距離を置いたりしながら、奥行きや光の加減、筆の跡、より良く見えるポイントなどを楽しんでもらえたら」と話している。
◆「出会いと、旅と、人生と。ある画家の肖像 日本近代洋画の巨匠 金山平三と同時代の画家たち」
会場:兵庫県立美術館(〒651-0073 神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1)
会期:2023年6月3日(土)~7月23日(日)
開館時間:10:00~18:00
休館日:7月17日以外の月曜と7月18日(火)
観覧料:一般1600円、大学生1200円
問い合わせ:同館078-262-1011