サッカー・J1のヴィッセル神戸で5年間にわたってプレーした元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ選手が、7月1日のホームゲームを最後に、ヴィッセルを退団した。タイトルをもたらすなど、クラブを高みに導いたマエストロとの別れに、ファン・サポーターからは悲しみや寂しさとともに、感謝の声が多数聞かれた。ここでは、イニエスタ選手のヴィッセルラストマッチ当日、J1第19節北海道コンサドーレ札幌戦の直前にノエビアスタジアム神戸場外で収録したサポーターの声、思いを届ける。
チケットは即完売。ノエビアスタジアム神戸は試合3時間以上前からすでに多くの人が詰めかけ、イニエスタ選手のバナーを写真におさめる人、グッズなどを買い求める人などでごった返していた。そのなかで、特別な一戦を目前に「わくわくっスよ!」というヴィッセルサポーター若手男子2人組を直撃した。
イニエスタ選手が退団理由に出場機会の減少をあげていたことについて、「しゃあないのかなと。吉田(孝行)監督も(メンバー選考は)神戸のための決断だと思うので。僕は全然、神戸込みで好きなので」と、好成績を残している現状を鑑み、理解を示した彼ら。
それでも、イニエスタ選手のプレーのすごさに話がおよぶと、2人がヒートアップする。
【青年サポーターA】 ボールタッチと、「ここ見てるんや!」というところにパスを出すのがすごいなと。
【青年サポーターB】 いや、違うって! (その前に)イニエスタはボールを見てなくて、相手のひざとかを見ながらプレーしているんですよ! それがすごいっすね! 僕が感じているのは、みんなが思っているすごさと違います! 「わぁー、すごい!」じゃなくて、「うわぁ、こいつまじか!?」みたいな。わかる人にはわかるから!
試合前から興奮気味に話してくれたヴィッセルサポーター2人組は、イニエスタ選手へのメッセージとして、「もう、サッカーだけじゃないんですよ。あるアーティストが、イニエスタが最後ということでバルセロナ戦を見に行ったりするくらい、それほど影響を与える人間であり、素晴らしい人なので、普通にありがとうとしか言いようがないですね」と、世界的スーパースターの神戸での5年間にひたすら感謝していた。
一方、「50年後や100年後でも、あのバルセロナでやっていたイニエスタがヴィッセルに来たと語られるくらい、(神戸でのプレーは)大きいことだと思います」と感慨深く話していたのは、カタカナで「イニエスタ」と描かれたクリムゾンレッドのシャツで観戦に訪れた、ヴィッセル親子サポーター。
「今日は絶対にこれを着ておかなくちゃならないと思って。娘と一緒に着てきました」という父親が思い出深いシーンに挙げたのは、イニエスタ選手が神戸で初得点を決めた2018年のJ1第21節ジュビロ磐田戦。「くるっと回ってね……あんなプレー、見たことがなかったじゃないですか。あれでまず度肝を抜かれて。あれはすごかったですね!」。その娘さんも、「うますぎて、初めて見たときは『イニエスタって、こんなにすごいんや』と思いました」と、驚愕したよう。
父親サポーターは改めて「まず、5年もいてくれて、神戸のために頑張ってくれて、ありがとう、ですね。まだどこかでプレーされるのであれば、それもDAZNとかで見られればいいのかなと。今までありがとうございますと伝えたい」とメッセージを送っていた。
試合前、先発がちょうど発表された頃に話を聞いた女性サポーター2人組は、イニエスタ選手のスタメン入りを知るや、涙ぐむ姿も。「ほんまや! うれしい! 涙が出てきた……! 今日は見に来た人多いと思うからよかった!」。また、退団は「さびしい……もっと見たかった」と述べつつ、他のサポーターと同じく、「ありがとうしか出てこないです……(涙)。いつでもいいから帰ってきてほしい!」と、ありのままの思いを言葉にしていた。
「(イニエスタ選手がいるのは)当たり前に感じていたんですが、5年間、本当にあっという間だったというか。(退団は)すごく残念な気持ちのほうが多いですが。これだけたくさんのファンが来ているので、最後セレモニーも楽しいもので終わったらいいなと思います」と試合前に述べていたのは、イニエスタ選手がCMにも登場した神戸の大手酒造メーカーのコラボ法被を着ていたお父さんサポーター。20年近くヴィッセルを応援してきたなか、イニエスタ選手の加入で「ヴィッセル神戸が一気にチームとして変わった、3段階くらいチームのギアが上がった」と感じたそう。「5年前、日本に来る決断をしてくれて、また、神戸を選んでくれたなか、イニエスタ選手がいなくなっても、この勢いを僕たちが止めちゃいけないと思います。もちろん今シーズンもそうですが、来シーズン以降も、このチームの流れを止めずに、イニエスタ選手がまたなにか戻ってこれることがあれば、もっともっといいチームで迎えたいなと思います」という言葉に、ヴィッセルサポーターの思いが凝縮されているように感じられた。
最後に紹介するのは、子どもサポーターの声。イニエスタ選手のラストマッチについて「悔いのないように、最後、イニエスタ選手を見届けたい、見送れたらなと思います」と緊張気味に応えつつ、「セットプレーや、パスはもちろんですが、どんどん相手をかわしていくタッチが好き」と、若くしてマエストロのプレーに魅了された様子。「(いなくなるのは)悲しいですが……これからも現役を続けてください!」と、今後のイニエスタ選手の新天地でのプレーに、彼なりのエールを送っていた。
2万7630人の大観衆が詰めかけ、場内は試合前から熱気に包まれた。サポーターが奏でるチャント、イニエスタ選手の応援歌などが響き続け、入場時のコレオグラフィは圧巻。そのなかで今シーズン初先発し、57分間プレーした背番号8は、交代時、満場の拍手を受けながらピッチを去った。