これはどう見ても、本物のスルメでしょう…。17人の現代作家による“神業”作品と明治時代の緻密な工芸品計124点が並ぶ展覧会「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」があべのハルカス美術館(大阪市阿倍野区)で開かれている。9月3日(日)まで。
気鋭の工芸アーティストたちが木、金属、陶磁、漆、ガラス、紙、糸などさまざまな素材から生み出した、バラエティーに富んだ「超絶技巧」の新作を紹介。明治時代の卓越した工芸技術にインスパイアされた作品群からは、いにしえの工芸の“DNA”を感じ取ることができる。
入り口に近い展示ケース内に横たわるのは、どこから見てもスルメ。だがその正体は、前原冬樹(1962~)の木彫作品「《一刻》スルメに茶碗」で、スルメ本体、スルメを止めているクリップ、金属に見えるチェーンもすべて、1枚の板から彫り出されている。リアルな表現もさることながら、一木造であることに驚愕する。
制作期間について前原は、「(どれくらいか)分からない。途中でいやになって放置した。何年かぐずぐずいじっていた」と振り返る。前原はもともとプロボクサー。32歳で東京藝大に入学し油絵を学び、卒業後に彫刻に転向した異色の経歴の持ち主だ。
前原が作品タイトルに付けた「《一刻》」について、展覧会を監修した明治学院大の山下裕二教授は、「(前原が題材に選ぶ)打ち捨てられているようなものが内包する時間のこと。前原は、作品で時間を表現している」とひもとく。
今展の最年少作家、福田亨(1994~)の「吸水」も、そのすさまじいまでの技術に言葉を失ってしまう。木のパーツをかたどり、立体的にはめ込む独自の技法で作った作品で、水を吸うアゲハチョウの姿を着色せず、自然の木の色味を生かして本物さながらに精巧に再現している。
さらにすさまじいのは、板の上に盛り上がる水滴が、別の木片をくっつけたのではなく、土台の板を彫り下げて浮き彫りにしている点だ。福田自身も「その点がもっとも難しかった」とし、「土台は堅くて割れやすい黒檀。逆向きに削るとバリッとめくれてしまう。木目を読みながら少しずつ彫っていき、まるで最初から平面であったかのように作り上げました」と苦心した過程を明かす。