日々の生活に宿る美を慈しみ、素材や作り手に思いを寄せる―。思想家の柳宗悦(やなぎ・むねよし、1889~1961年)が表した美「民藝」について、さらに現代に受け継がれたその概念をひもとく展覧会「民藝MINGEI―美は暮らしのなかにある」が大阪中之島美術館(大阪市北区)で開かれている。9月18日(月・祝)まで。
柳は、無名の職人が作る日用の品々の美しさに引かれ、その美を造語「民衆的工藝」、略して「民藝」と名付けた。「民藝」の価値観を広めようと、1926(大正15)年、柳は河井寛次郎ら仲間とともに民藝運動を始め、1936年、日本民藝館(東京都目黒区)を設立。国内外で収集した民藝の品々を公開した。
今展では、同館の所蔵品を中心とした約150件を紹介。展覧会を監修した美術史家の森谷美保さんは、展示コンセプトについて「柳の生涯や民藝の歴史ではなく、暮らしと民藝をテーマに、より身近に民藝を感じてもらえる構成にした」と語る。
会場は3章仕立て。第1章「1941生活展―柳宗悦によるライフスタイル提案」は、1941(昭和16)年、日本民藝館の展示で披露されたテーブルコーディネートや居間のしつらえを再現したインスタレーションでスタートする。
「居間」には、柳が1929年にイギリスから持ち帰った子ども用のウィンザーチェア「チャイルド・スクロールバック・アームチェア」、表面の橙色が特徴的な「鉛釉蓋壺」(佐賀、1932年ごろ、日本民藝館)、下部の広がりが炉の縁に安定し、熱を効率よく受ける作りになっている「羽広鉄瓶」(山形、1934年ごろ、同)など、来歴の異なる調度品や生活雑貨類が絶妙な調和を保ちつつ並ぶ。その一つ一つが飾るだけの美術品ではなく、実用性も兼ね備えている点が興味深い。
第2章では、各地の生活に根ざした衣類や装身具、台所用品、食器などを「衣食住」の視点で分類。特に目を引くのは、使い古した着物や布を裂いて紐状にしたものを糸として織った「裂織丹前」(福井、江戸~明治時代・19世紀、同)や江戸時代、下総国(千葉)にあった御用牧場で馬の飼養役が使っていた将棋の駒柄の羽織「駒散し文様羽織」(江戸時代・19世紀、同)など。現代でも人気を集めそうな、おしゃれで垢抜けたデザインであり、同時に、今では見られなくなった当時の暮らしぶりを伝える貴重な資料でもある。また、柳が深い関心を寄せ、収集した沖縄の紅型、芭蕉布、漆工品なども見どころ。