大阪・関西万博(2025年4月13日〜10月13日 184日間)では、153の国・地域のほかに13の民間企業・団体がパビリオンが立ち並ぶ。
NPO法人ゼリ・ジャパン(本部・東京都品川区)は、「海の蘇生」をテーマとしたパビリオン『BLUE OCEAN DOME(ブルー・オーシャン・ドーム)』を出展する。その名の通り、「海」を前面に打ち出して、パビリオンの来場者に海洋汚染問題を考えるきっかけを示し、海洋資源の持続的活用や、海洋生態系の保護について学ぶことができる場にするという。
ゼリ・ジャパンは、資源とエネルギーを循環再利用し、廃棄物をゼロに近づける「ゼロ・エミッション構想」(ZERI=Zero Emissions Research and Initiative)を出発点として、循環型社会を実現するために 2001 年に設立されたNPO法人。理事長は、衛生用品・食品などを製造販売するサラヤ株式会社(大阪市東住吉区)代表取締役社長・更家悠介氏。
■「海の蘇生」世界中で持続可能な海を残したい
世界の海が汚れている。海洋プラスチックごみの問題は深刻だ。2019年6月、大阪で開催されたG20サミットで、日本は2050年までに海洋プラスチックごみによる新たな汚染をゼロレベルまで削減する「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を提案し、各国首脳間で共有された。25日、大阪市内で開かれた記者会見で更家氏は、「四方を海に囲まれた海洋国・日本が、将来的な海のストーリーを作らなければいけないが、日本だけで解決できる問題ではない。地球の7割を占める海が、いのちを輝かせて持続可能なものにならなければ」と指摘した。
2016年1月のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で発表された報告書によると、世界中で800万トンのプラスチックごみが海に流出しているという。さらに、このまま何の対策も取らないと、海洋プラスチックごみの重量が、2050年には魚類の重量を上回るとの懸念もある。
このように「海の蘇生」をテーマにしたゼリ・ジャパンは、3つのドームを連ねたパビリオンにも環境に配慮した。日本の竹による集成材や、カーボンファイバー(炭素繊維強化プラスチック)、再生紙の紙管(しかん・紙製の管や筒)を用いて廃棄物を限りなく削減する。そして、万博終了後にはパビリオンそのものを移築、再利用ができるよう設計した。
■「対馬モデル」の研究・開発を推進
2021年、関西経済同友会やゼリ・ジャパン、サラヤグループなどが、国際的な海洋ごみのホットスポット、長崎県対馬市を訪れた。海洋汚染が進むにつれ、対馬の海岸に中国や韓国、インドネシア(日本も含む)などからプラスチックごみが海流や風力に押されて漂着している。年間最大量は約3万平方メートルとも想定され、回収できるのはその3分の1程度に過ぎないという。
こうしたことから、資源循環の研究開発を進める「対馬モデル(循環経済モデル)」に関する連携協定を結んでいる。更家氏はラジオ関西の取材に対し、「海洋プラスチックを上手に回収してリサイクル、あるいはエネルギーとして活用する方法を考えなければならない。将来の産業のイメージとして、循環経済(サーキュラーエコノミー)に向かって、子どもたちにも伝えたい」と話す。そこで大阪・関西万博でも「対馬プロジェクト」として、パビリオンをその発信点に位置付けた。
■パビリオン軽量化 将来の建築の実験場に
パビリオンの建築設計は、2014年に建築界のノーヘル賞と呼ばれる「ブリツカー賞」を受賞した建築家の坂茂(ばん・しげる)氏、展示コンテンツは株式会社日本デザインセンターの原研哉氏と原デザイン研究所が、工事は大和ハウス工業がそれぞれ担当する。
坂氏は、海洋汚染問題を論じる際に「プラスチックそのものが悪い、という捉え方ではなく、むしろ素晴らしい発明のひとつ。われわれ人間がプラスチックをどう利活用していくのかが大切」と強調する。
パビリオンを建設するに当たり、坂氏はそれぞれの素材の持ち味を語った。竹は素材としては強いが、直射日光に弱く、すぐ割れてしまう。そこで集成材とすることにより、強度を増すことができるという。カーボンファイバーは、鉄の10分の1の軽さで同等の強度が出るため、飛行機や車のボディにも用いられている。早くから紙管に着目していた坂氏は、1995年の阪神・淡路大震災で焼失した神戸市長田区の「たかとり教会」に出向き、住民のコミュニティスペースと聖堂を兼ねた空間を紙管で作ったことで知られる(2005年に解体、翌年に台湾・南投県埔里の震災被災地へ移設)。
坂氏は「パビリオンの軽量化」を強調する。会場の人工島・夢洲(ゆめしま)は埋め立て地であることから、地盤が緩い。そこにパビリオンを建設する際、通常ならば杭(くい)を打たなければならない。しかし坂氏は今回、工事の効率化、簡素化のために杭を一切使わないという。そして、「地盤を掘り起こした時に生じる土よりも、建物の荷重が小さければ杭を必要としない」と強調した。さらに「万博を“将来の建築の実験場”として、軽量化の意義を持たせたい」とした。
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連なる3つのドームには、それぞれコンセプトがある。(延床面積2766.42平方メートル)
▼エントランスとなる「ドームA」は竹の集成材を利用する。高さ7.8メートル・直径19メートル。“循環”がテーマ海洋から蒸発した水が山に降り、濾過されて池や川から再び海洋へ循環する不思議さを表現する装置を設ける。