昭和の食卓でよく見られた、メッシュのカバー。「蝿帳(はいちょう)」と呼ばれるそれはレース状の布などでできており、ハエなどの虫から食材を守るために使用されていました。「仕事から帰ると、あのカバーを被せられた夕食が食卓に用意されていた」というのは、昭和のお父さんにとって懐かしの風景なのではないでしょうか。
昭和の必需品として知られる蝿帳ですが、今ではすっかり目にする機会も少なくなりました。そんな蝿帳の歴史と、現代における進化について、いまも製造を続ける北次株式会社の三代目・北次孝得さんに話を聞きました。
―――いつから製造している?
【北次さん】 弊社の創業は1955年で、当初はシーツやクッションカバーなどを作っていました。蝿帳を作るようになったのは1980年ごろで、それから40年以上が経つ現在も製造を続けています。蝿帳そのものはずいぶん前から家庭で使われていたため、弊社は比較的後発のメーカーでした。
―――なんのために使われていた?
【北次さん】 当時使用されていた人はご存じだと思いますが、準備した料理に虫が寄ってくるのを防ぐためです。現在の洋風建築とは異なり、昔は縁側があるような風通しのいい日本式の住宅が多かったため、家のなかに虫が飛んでいることも普通のことでした。そのため、食卓の虫よけは必須だったんです。皆さんの記憶にある蝿帳はメッシュのものが多いと思いますが、さらに昔は木箱のような形をしていたと聞いたことがあります。
―――販売数はどのように変化してきた?
【北次さん】 やはり家庭で使われることが減りましたので、製造を開始した当時と比べると3分の1ほどに減っています。ただ、現在も年間300~400本ほどは売れていまして、夏になると売上数が顕著に伸びたりします。
現在も“自宅での虫よけ”という本来の用途で使用してくださる人もいますが、ペットが人の食事を食べてしまわないように使用していただくことも。なかには、ラップを毎回使うよりもエコだとして、SDGsの観点で選んでくれる人もいらっしゃいます。さらに、最近ではキャンプをする人に外で使用していただくこともあります。