古くから“神戸の台所”として地域の人々に親しまれ、現在も多くの人で賑わう神戸市兵庫区の東山商店街。この場所で74年間にわたって営業を続けてきた歴史ある銭湯が、今年リニューアルオープンし、地元の常連客から若者まで幅広い世代に注目されています。「湊河湯(みなとがわゆ)」の店長・松田悠さんに聞きました。
湊河湯は、神戸市営地下鉄・湊川公園駅から徒歩5分のところにあります。1949年から「湊川温泉」として地元の夫婦が営業してきましたが、今年8月、“銭湯を日本から消さない”をモットーに掲げ、関西を中心に昔ながらの銭湯を継承して運営する「ゆとなみ社」(京都市下京区)に引き継がれました。
湊川湯は、今年1月、先代の主人が亡くなったことで運営が難しくなり休業状態に。そのようなとき、引き継ぎたいと申し出たのが、湊河湯に10年以上通っていた常連客のひとりで、ゆとなみ社に勤務する松田さんでした。松田さんは学生時代から、この銭湯の雰囲気や地域に根付いた在り方に惹かれ、「湊川湯は絶対に残さないといけない」との思いがあったといいます。ゆとなみ社に入った動機も、元はと言えば湊川湯を残すためだったそうです。
ゆとなみ社の代表に直談判し、湊川湯を継承することになった松田さんは、店を支える大黒柱として新たな取り組みにも挑戦しています。
まずは、番台式だった銭湯をフロント式に改装し、ロビーエリアを作りました。そこに、神戸・新開地のクラフトビール「湊ビール」やフルーツサワー、ソフトドリンクなどを提供する“立ち飲みカウンター”を新設。風呂上がりに、気持ちのいい風を感じながら地元の味をたしなみつつ、ちょっとした交流を図ることができる場が生まれました。
また、店にネオン看板を設置してロゴも一新。ニューレトロな雰囲気が漂う、新たな店の顔が誕生しました。ロゴを生かしたオリジナルのグッズも制作して、収益を銭湯の修繕・運営資金に充てるといいます。
加えて、理容師が出張整髪を行う“バーバー体験”や、避難訓練、バンド・DJのパフォーマンスを楽しめる音楽イベントなども開催。これまで来店者の中心となっていた地元客だけでなく、若者や、遠方からわざわざやってくる人も増えているそうです。
松田さんは、「湊河湯を守ることは“銭湯を日本から消さない”につながると思っています」と語ります。昔ながらの雰囲気と新たな挑戦が入り混じる、新しいカタチの銭湯。繰り出される新展開の中に、日本の銭湯の未来につながるヒントがあるかもしれません。
※ラジオ関西『Clip火曜日』より