山形県では電話の挨拶がいきなり過去形!? 「もしもし+名乗り+でした」 ナゼ? 背景に方言の歴史 | ラジトピ ラジオ関西トピックス

山形県では電話の挨拶がいきなり過去形!? 「もしもし+名乗り+でした」 ナゼ? 背景に方言の歴史

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 皆さんは、自分から電話をかける際、相手になんと名乗りますか?  おそらく、「もしもし○○です」「こんにちは○○です」と言うことがほとんどではないでしょうか。ところが山形県では「〇〇でした」と、まるで過去形のように言う人が一部いるそうです。いきなり「〇〇でした」と言われると、さっそく通話が終わってしまったような気分……。なぜ会話の冒頭にもかかわらず過去形なのでしょうか?

 この不思議について、山形大学の人文社会科学部人間文化コースで日本語学などを専攻する中澤信幸教授に詳しく聞いてみました。

一部の山形県民が使う方言「〇〇でした」

「この『た』ですが、過去形の意味ではありません。完了形の確認する意味合いで使われています。つまり『〇〇でした』と言った場合、『〇〇という人間が現れた』というような意味合いになります」(中澤教授)

「完了形」は現在の日本語には存在しない文法のため、英語の「have been」などを想起します。日本語において 「〇〇でした」と近い言葉としては、古語ではありますが完了の意味を持つ助動詞「〇〇たり」があるそうで、中澤教授は「山形県の『〇〇でした』は、『〇〇たり』以来の完了の意味を受け継いでいるのかもしれない」と分析しています。

 また、県全域でなく山形市や寒河江市を含む「村山地方」で主に使われているそうです。“電話”で使用されている言葉ということで、比較的最近できた方言のように思えますが、他人宅を訪問する時に「こんにちは。○○でした」と挨拶することもあるのだとか。

「山形県にはもともと『〇〇だっけ』という方言があったのですが、戦後になってからこれを共通語にしたのが『︎〇〇でした』だった、という説もあります。だとすると『〇〇でした』は、戦後に共通語が普及した際に使われるようになったと考えられます」(中澤教授)

 正確な起源は明らかでないものの、県内の一部地域では確かな歴史を持つこの方言。最近ではメッセージアプリやSNSも普及し「電話嫌い」な人も増加しているといいます。そんな時代の変化によって影響は現れているのでしょうか。

「はっきりとは分かりませんが、現在ではおそらく50代以上の人しか使わないのではないでしょうか。『〇〇でした』という言葉は、形としては共通語と同じであるものの用法としては山形県独特のものです。そのため次第に使われなくなったという説も考えられます」(中澤教授)

 山形県独特の「〇〇でした」については、充分な調査はされておらず謎も多いそう。「これまで分かっていることは、あくまで推測どまりな話も多いです。県の全域を対象にした大規模なアンケート調査などを行えれば、事実として証明できるかもしれません」と中澤教授。もしかすると、今後の調査によっては、知られざる事実が明らかになるかもしれませんね。
 
(取材・文=つちだ四郎)

主に電話口で使う方言「〇〇でした」はまだまだ謎が多い(イメージ)

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