11月23日から上映され、前作に続き手厳しい地方いじりで話題の映画『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』。埼玉県は昔も今も「ダサい」「田舎」「無個性な住宅地」みたいなマイナスイメージを持たれがちなのでしょうか? 埼玉のご当地ソングたちをひもときながら、シンガーソングライター・音楽評論家の中将タカノリと、シンガーソングライター・TikTokerの橋本菜津美がその真相にせまります。
※ラジオ関西『中将タカノリ・橋本菜津美の昭和卍パラダイス』2023年12月8日放送回より
【中将タカノリ(以下「中将」)】 2019年にGACKTさん、二階堂ふみさん主演で大ヒットした映画『翔んで埼玉』の続編、『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』が11月23日から上映され話題になっています。
【橋本菜津美(以下「橋本」)】 まさかの続編でしたね!
【中将】 原作は『パタリロ!』の作者で、僕が大好きな魔夜峰央さんの作品。魔夜さんが地元の新潟県から埼玉県所沢市に引っ越したことから、1982年から1983年にかけて連載されていました。途中、横浜に引っ越してしまい創作意欲が湧かなくなったことから中断され、そのままになっていましたが、近年インターネット上で話題になりブレイクを果たしたという異色の未完作品です。
みなさんご存じの通り埼玉をディスりまくる内容なんですが、なぜか埼玉県は昔も今も「ダサい」「田舎」「無個性な住宅地」みたいなマイナスイメージを持たれがちです。実際は人口700万人以上と、けっこう栄えているのですが。
【橋本】 やっぱり東京が近すぎるからでしょうか?
【中将】 でも同じ条件の神奈川県は横浜や湘南などいいイメージを持たれているし、関西でも大阪が街としては大きいけど、神戸や京都もちゃんと独自の魅力を発信できているんですよね。それに比べて埼玉はなぜ……というのが今回のテーマです。
【橋本】 なるほど!
【中将】 というわけで、今回はそんな埼玉を歌ったご当地ソングを紹介し、楽曲を通して埼玉という土地の特性やパッとしない理由を探りたいと思います。まずはさいたまんぞうさんの『なぜか埼玉』(1981)。
【橋本】 「なぜかしらねど ここは埼玉 どこもかしこも みんな埼玉」……どういう意味ですか!?
【中将】 『翔んで埼玉』でも挿入歌として使われていましたが、昭和世代にとって埼玉と言えばこの曲なんですよね。無意味なフレーズの繰り返しがじわじわきます。『なぜか埼玉』は初め、ベガー・ミュージックK.K.というインディーズレーベルでテキトーなご当地ソングの一環として制作したそうです。当初はなんの反響もなかったんですが、キャンペーンで父親がレコードを買ったという高校生からのリクエストで『タモリのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)の「思想の無い歌」コーナーで紹介。一躍、全国区のヒットとなりました。
【橋本】 すごい! まるでシンデレラストーリーですね(笑)。
【中将】 埼玉の地元民にはウケないけど、他県の人からのイメージにはハマったんでしょうね(笑)。ちなみに、埼玉には数々のご当地ソングがありますが、その大半は一地方や市町村ごとのご当地ソングで、埼玉全体を歌った曲って少ないんですよ。その点でも『なぜか埼玉』は貴重です。
お次にご紹介するのはチェリッシュの『春日部サンバ』(1990)。春日部市民の間で絶大な支持を受けるご当地ソングで、盆踊りの定番らしいですね。
【橋本】 『てんとう虫のサンバ』(1973)のチェリッシュさんならではのサンバ曲! でもちょっと取ってつけたような感じもする曲ですよね(笑)。
【中将】 「空は青く 水は清く 古利根川は」とベタな自然賛美から始まり「あの夢も この夢も 桐のタンスの中」という無理やりな名産品推し、サビでは「おとこサンバ おんなサンバ 春日部サンバ」……テキトー感あふれすぎていて逆にじわじわきますよね。作詞はフォーリーブス『ブルドッグ』(1977)や日立のCMソング『この木なんの木』(1973)を手がけた伊藤アキラさん。どんなイメージで作ったのか聞いてみたいですが、2021年に亡くなっているので真相は霧の中です。