みなさんは入浴中、洗髪したのかしてないのかわからなくなることはないでしょうか。筆者はここ数年よくあります。髪を触ってまだ洗っていないことに気づくこともあれば、シャンプーの泡立ちがやけに良いことから既に洗っていたたことに気づいたりもします。筆者は30代半ば……にも関わらず“記憶を失ってしまう現象”が起こると、にわかに心配になってくるのが「脳の衰え」です。
しかしながら、近年なにがしかの行動について「したっけ?」と迷うケースは年齢に関わらず多発しているようです。こうした現象に問題はないのか、起こる理由について『脳の学校』(東京都港区)代表の加藤俊徳医師・医学博士に話を聞きました。
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加藤博士いわく“忘れてしまう原因”は様々で年齢に関係になく起こることと述べつつ、代表的な要因は大きく2つ考えられるとのこと。その2つとは「脳の自動化システム」と「切り替えの多さ」だといいます。
【脳の自動化システム】
作業がルーチン化・習慣化された時、無意識にその行動ができるようになること。通常、新たな作業をする場合は小脳・海馬・大脳が“連動”するため行動が記憶に刻まれていきます。しかし『洗髪→体を洗う→洗顔』など、何度も繰り返された作業は“大脳が主体”となり、行動が自動化されてしまいます。「自動化された行動」は無意識に行われるものとなり、記憶として鮮明に刻まれなくなります。
「この結果、『シャンプーしたかしら? どうだったっけ?』という“物忘れ”のようなことが起こります。ちなみに『家の鍵をかけたかな?』『エアコンの電源を切ったかな?』というのもこれに当てはまります」(加藤博士)
【切り替えの多さ】
仕事に重責がある人や、次々に物事を考える必要がある人に当てはまりやすい。こういった人は、何か作業をしていても意識は別のところにありがちです。この場合、ルーチン化された作業はより自動化に頼ることになり、脳に記憶が刻まれないそう。
「複雑だと感じている仕事でも、ある程度慣れることでテンプレート化(自動化)されるため、徐々に脳が育たなくなっていく」と博士。実際、先週の同じ日に何の仕事をしたのか思い出せない方も多いのでは……と指摘します。「脳の若返り」や「認知症予防」には、脳の自動化システムに頼らない生活にチャレンジすることも大切なのだとか。そこで、博士が推奨するのが「ラジオを聴きながら内容を理解しつつ作業する」というメソッドです。
「ラジオから流れてくる内容は毎回変わります。『耳を傾けながらも、作業に向けた意識を散漫にさせない』というのは、かなり良いトレーニングになりますよ」(加藤博士)
「シャンプーのし忘れ、私もよくあります。ですが、脳に異常があるわけではないので心配ありません」と博士。気になる場合は生活習慣などを見直し、脳への負担を減らすことが大切だといいます。
「睡眠が不足をはじめ、不安定な生活リズムや多忙による疲れによって引き起こされている可能性があります。また、スマホの触りすぎも一因かと。では、記憶を定着させるためにはどうしたらいいのか? おすすめの方法としては『今日一日で何が起こったのか』を振り返る余白時間を作ること。たった数分でいいんです。私はこれを“のりしろ時間”と呼んでいます」(加藤博士)
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取材後、博士が言っていた「のりしろ時間」が印象に残った筆者。お疲れ気味の現代人の脳をリフレッシュさせるためにも、ちょっぴり意識してみるといいかもしれません。
(取材・文=宮田智也)
◆加藤俊徳医師・医学博士の著書
『老害脳』(ディスカヴァー携書)