神戸市中央区の神戸文化ホール(中ホール)で、3月20日(木・祝)に、「第十七回神戸能」が行われます。初めて能楽に触れる人々も楽しめるような工夫が施されている今公演についての見どころや、能の魅力、兵庫県での能の現状などについて、出演者に聞きました。
今回の「神戸能」では、まず、演目についての専門家からの講演や、狂言・囃子についてのワークショップを展開。そこで能楽の基礎知識や見どころのレクチャーを受けたあと、狂言「雁礫(がんつぶて)」と能「善知鳥(うとう)」が上演されます。
そのうち、今回の能の演目「善知鳥(うとう)」は、漁師の霊を主人公とし、生きるために他の生命を奪わなければならない人間の悲哀や、妻子を想う家族愛等の様々な人間ドラマが合わさった悲劇的な物語です。
能には様々なジャンルがありますが、「善知鳥」のように人生や死生観を深く問いかける演目も多いというのは、今回の公演を担当する能楽団体で、一般社団法人瓦照苑(公益財団法人能楽協会神戸支部)の上田宜照さんです。

そもそも能とは、室町時代に観阿弥・世阿弥によって大成された日本の伝統芸能で、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。
宜照さんは、「能の魅力は、ただのエンターテインメントにとどまらない。室町時代という社会情勢の不安定な歴史的背景もあり、戦乱を生き抜いた人々が、人生観に焦点を当てて能を発展させてきました。現代においても人々の生き方を見つめ直すきっかけを与えてくれる芸術である」と語ります。
さらに、能面や衣装の美しさも見どころの一つだといいます。
舞台で使用される装束は、とても高価なもの。室町時代から続く装束もありますが、新たに制作された装束にも、当時と同じ伝統技術を駆使して作られているため、芸術的な価値もあります。その装束を、美術館の展示のように鑑賞するだけではなく、演者が着用して舞うというのは他にはない魅力です。

芸術的価値の高い能ですが、それを表現する演者には多大な訓練が必要となるとのこと。能面を付けて演じることの多い能ですが、顔の角度や動かし方によって喜怒哀楽を表現しています。ほんの1ミリ2ミリの角度で表情が変わるそうで、特に「善知鳥」のような感情の起伏が激しい演目では、わずかな動きや声の高低・強弱が観客の感情を揺さぶります。

長い歴史を持つ能楽。兵庫県で能に携わる人口は、震災や社会の変化により減少しています。能楽協会神戸支部所属の演者は、かつては100人以上いたのが、現在は40人弱とのこと。
兵庫の能楽を盛り上げるため、能楽協会神戸支部では若い世代への普及活動に力を入れ、兵庫県と連携した小中学校でのワクワク体験教室等にも積極的に取り組んでいます。また瓦照苑でも、他業種とのコラボレーションに力を入れ、例えば旅館での食を含む体験型公演や、美術館を貸し切っての能とワインを楽しむ会など、新しい形で能の魅力を伝えているそうです。