穏やかな日常は、いつ、どんな形で壊れてもおかしくない。世界では、理不尽な攻撃や戦争、自然災害によって、住んでいる場所を追われる人もいる。非常が常態化している時代と言える。そんな時代をどのように生きることができるのか。8人の作家による表現を通して、考え、明日を生きる希望を探る特別展「非常の常」が、国立国際美術館(大阪市北区)で開催されている。2025年10月5日(日)まで。
今、この瞬間にも世界のどこかで、地震・山火事などの自然災害や戦争、クーデターなど、何かが起こっている。日本でも各地で大きな災害を経験しているし、記憶に新しい新型コロナウイルスの脅威に直面したあの日々はまさに非常事態だった。「コロナ以降はいわば非常事態が常態化し、不安と共にある。そんな『非常の常』の時代をどのように生きていくことができるのか。8人の作家の表現を通して考える展覧会です」と、国立国際美術館の橋本梓主任研究員は話す。
今展では8人の作家のうち7人が、映像によるインスタレーションを発表する。
台湾の映像作家・袁廣鳴(ユェン・グァンミン)が、昨年のヴェネツィア・ビエンナーレ台湾館のために制作・発表した『日常戦争』(2024年)は、国内の美術館では初めての展示となる。映し出されるのは誰かの部屋と思われる生活感があふれ居心地のよさそうな空間。その部屋が何者かによって破壊されていく。外から狙撃されたかのように窓ガラスが割れ、部屋の中から火の手が上がる・・・世界のどこかではこのようなことが現実に起こり、危険が隣合わせにあるということを痛感させられる作品だ。
コミュニケーションを基にした映像作品を通じて、社会が抱える難題や課題にアプローチする手がかりを探る高橋喜代史。会場ではスイカジュースを配るパフォーマンスとその記録映像を中心としたプロジェクト『Free Watermelon Bar』を発表している。「Free」は、「無料」という意味のほか、「解放せよ」という意味も持つ。スイカはその配色からパレスチナの象徴とされていて、髙橋はスイカジュースを配りながら、言葉を交わし、日本から遠い異国の地の非常事態との「関わりしろ」を生み出す。(スイカジュースを配るパフォーマンス『フリー・スイカ・バー』は、会期最終日の10月5日に開催予定)

米田知子(兵庫県出身)の写真作品は、一見穏やかで美しい風景を切りとったようだが、撮影されたのは韓国と北朝鮮の間の非武装地帯。可憐に咲く花とともに有刺鉄線が写る作品もあり、緊張状態が続いていることがわかる。『境界線の向こうに絡まる二本の松(北朝鮮と韓国の北東最前線・ゴセオン・韓国)』(2015年)には、そのタイトル通り、鉄柵の向こうで2本の松の木が絡まっている。「緊張感がある場所だけど、友情というか、1つというか、そんなことが表現できたのでは。そんな時代もありますよね」と米田は話す。
「8人の作家の表現のあり方はそれぞれ。美しいからこそ非常であることがより伝わる。つい見続けてしまう作品ばかり」と同館の島敦彦館長は言う。作品から発せられるメッセージを、未来への希望につなげられるか。「非常の常」の今だからこそ、考えるきっかけを与えてくれる。展示を見終わった後、平和を望まずにはいられない。





