広がる田園が牧歌的な風景を作り出している、兵庫県姫路市香寺町。そこに佇むのが、趣ある白壁土蔵造りの「日本玩具博物館」。私立博物館ながら2016年にミシュラン・グリーンガイドで二つ星を獲得し、世界160の国と地域から集められたおよそ9万点の玩具を所蔵しています。学芸員の尾崎織女さんに詳しく聞きました。
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尾崎さんによると、昔のおもちゃは単なる遊び道具ではなく「魔除け」「子どもの健やかな成長を願う道具」でもあったといいます。また、自然の恵みを活かし子ども自身が作りながら遊ぶ、“暮らしと一体となった文化”だったそう。
【弾き猿】赤い猿が竹の弓で跳ね上がる玩具。病魔を弾き飛ばすお守りの役割を持っていた。

【蛍かご】麦わら編みの小さなかご。捕まえた蛍を入れ、その光を楽しむための季節玩具。

館内には、姫路の城下町文化を映す玩具もあります。押絵をあしらった羽子板や、子どもが自作して遊んだ「ぼんちこさん」と呼ばれる“姉さま人形”など、今では作り手が途絶えつつある品々が大切に保存されています。館長である井上氏の母が最後の伝承者だったという人形づくりは、「地域の手仕事」や「美意識」を子どもに伝える意義を持ったものでした。
同博物館ではこうした地域文化を紹介する企画展も催されます。夏秋の特別展「日本の節句飾り~正月の玩具と節句の人形飾り」では、姫路の沿岸部に伝わる珍しい七夕飾り「七夕さんの着物」が取り上げられました。初めて七夕を迎える子どもが、一生衣装に困らないようにと願いを込めて、和紙で作った着物を飾る風習です。江戸時代には本物の着物を供え、織姫に倍返しを祈願したといいます。現在は地域の有志とともに、この文化を復活させようという動きも生まれています。
「玩具を集めて展示することで、その背景にある文化や祈りを伝え、次の世代につなぐことができればと考えています」と尾崎さんは述べ、インタビューをしめくくりました。
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今回の取材を通して分かったことは、ここは単なる“おもちゃの見学施設”ではないということ。人々の暮らしや祈り、子どもたちへの願いが込められた「文化の宝庫」としての顔があったのです。

(取材・文=洲崎春花)
※ラジオ関西「ヒメトピ558」2025年8月22日、29日放送分より


