ゴッホの人生における“最も幸福なころの絵”が神戸に。フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~1890年)の画業前半に焦点をあてた展覧会「阪神・淡路大震災30年 大ゴッホ展 夜のカフェテラス」が神戸市立博物館(神戸市中央区)で開かれている。オランダのクレラー=ミュラー美術館が所蔵するゴッホ作品約60点を中心に紹介。阪神・淡路大震災から30年を迎えた神戸で、逆境の中、芸術に幸福と希望を見出したゴッホの軌跡に触れることができる貴重な機会だ。2026年2月1日(日)まで。

クレラー=ミュラー美術館はオランダの首都アムステルダムから東へ約80㎞の国立公園内に位置。1938年、実業家夫妻が収集した作品をオランダ政府に寄贈、創設された。妻のヘレーネ・クレラー=ミュラーは、当時評価が定まっていなかったゴッホの油彩画や素描を数多く購入。ゴッホの家族が設立したファン・ゴッホ美術館(アムステルダム)に次ぐ、世界で2番目に多いゴッホコレクションを誇る。

本展は5章構成。ゴッホ作品の展示は、絵の道を志し、親族の画家に指導を受けて仕上げた「麦わら帽子のある静物」(1881年)から始まる。オランダにいたころの初期作品の中で印象的なのは、織工や農民など、働く人々の姿を描いたシリーズだ。中でも「じゃがいもを植える農民」(1884年)は、7人の人物が農作業に励む様子を捉えた、横長の大きなキャンバスが目を引く。ある者はスコップで土を耕し、ある者は種を蒔きと、人物みなが懸命に仕事に勤しんでいる。人々が生きるために行い続けてきた地道な農作業、その営みの尊さに打たれた画家の思いが伝わる秀作だ。


ゴッホは1886年、フランス・パリに拠点を移す。パリで印象派の画家たちの影響を受けて配色や筆致の試行を重ね、それまで暗く重たかった画面は軽やかで明るい色調へと変わっていく。花を主題とした静物画「バラとシャクヤク」(1886年)、「野の花とバラのある静物」(1886~1887年)、「青い花瓶の花」(1887年)はその変化がよく分かる3作。とりわけ「青い花瓶―」は、黄色い小ぶりなヒマワリを中心に白いヒナギク、青いライラック、朱色のアネモネがコバルトブルーの花瓶の上で鮮やかに咲き、背景には新印象派を思わせる点描表現も。オランダ時代と同一作家の手によるものとは思えないほど異なる作風となっている。

1888年、都会での生活に疲れたゴッホは、南仏プロバンス地方のアルルに引っ越す。風光明媚なアルルで、鮮烈な色彩対比を基調とするゴッホ独自の表現が開花。1年あまりの滞在中、約200点の油彩画、100点以上の素描・水彩画を制作した。





