兵庫県宝塚市の住宅で年2020年6月、同居する親族らにボーガン(クロスボウ・洋弓銃)を撃ち3人を殺害、1人に重傷を負わせたとして、殺人などの罪に問われた無職の男(28)の裁判員裁判で、神戸地裁は31日、無期懲役(求刑・死刑)を言い渡した。

判決によると、男は2020年6月4日午前5時ごろから10時10分ごろまでの間に自宅で、祖母(当時75)、母親(同47)、弟(同22)の頭部にボーガンの矢を放って殺害し、伯母(現在55)に対しても、首の骨を折るなどの傷害を負わせたとされる。

被告は起訴内容を認め、争点は刑事責任能力の程度だった。また被告人質問で、「事件を起こしたことに後悔はないのか」と問われ、「ありません」と答え、「死刑になりたい気持ちは、当時と変わらず持ち続けている」という趣旨の発言を繰り返していた。
検察側は論告で、精神鑑定の結果を踏まえ、「被告は従来、人とのコミュニケーションが極端に苦手な『自閉スペクトラム症』があったが、これが動機につながった影響は大きくなく、事前にボーガンを準備し、試し撃ちをして威力を確かめるなど計画性があった」とした。 また「『死刑になりたい』『死刑判決を確実にするための犯行』という自己中心的な動機は、人命軽視も甚だしい」と指摘した。
一方、弁護側は「男は犯行当時、物事の善悪の判断能力が著しく減退している心神耗弱(しんしんこうじゃく)状態だった」と述べ、責任能力は完全に備わっていなかったと主張、懲役25年が妥当だとしていた。

判決で神戸地裁は、男の自閉スペクトラム症が犯行に与えた影響は大きくないとする検察側の主張を認め、完全責任能力があったとした。そして、弁護側が主張していた心神耗弱状態についても否定した。
その一方で、動機形成に対する被告の発達障害や、強い不安や恐怖心を持つ『強迫性障害』があったことは認定し。「死刑が真にやむを得ないとまでは言えない」とした。
その背景として、「男の幼少時に母親が離婚、その後(母親が)うつ病を発症し、養育が手薄になったことなどから母親に不信感を抱いていたことや、男が将来への展望を持てず、精神的に不安定になり、自殺を考えるようになったが、精神科を受診できず、自ら判断していた点は考慮すべき。社会的影響は大きいが、家庭内での事件であり反社会性はない」とした。
そして、 「被告自身ではいかんともし難い面もある」などと被告に有利な事情を述べた。
神戸地検の福田尚司次席検事は「判決内容を精査し、上級庁とも協議の上、適切に対応したい」とコメントした。



