大正から昭和初期にかけて、日本画、書籍の装丁、挿絵、舞台美術など幅広い分野で活躍した美術家・小村雪岱(1887~1940年)の画業を総覧する展覧会「密やかな美 小村雪岱のすべて」があべのハルカス美術館(大阪市阿倍野区)で開かれている。大阪では初となる大規模回顧展で、前後期合わせて約600点の作品と資料を通し、雪岱の多ジャンル、25年に及ぶ画業とその奥深い魅力に迫る。

小村雪岱は、情趣に富んだ端麗な画風から「昭和の春信」とも称される存在。日本画家としての活動にとどまらず、泉鏡花をはじめとする文学者の書籍装丁や新聞・雑誌の挿絵、さらには映画や舞台の美術考証、舞台装置まで手がけ、その仕事は当時の文化芸術を横断した。本展では、こうした多彩な画業を「人とのつながり」という視点から再考し、雪岱が多くの表現者と協働する中で築き上げた独自の美意識を浮かび上がらせる。
冒頭は「青柳」(1924年ごろ)、「雪の朝」(同)など、日本橋を題材とした肉筆画・版画が並ぶ。明治期に10代を 過ごした日本橋の記憶をもとに、関東大震災後の都市変容を背景としながら描いたこれらの作品は、人物を描かずとも人の気配を感じさせる構成が特徴。余白に宿る粋と静謐な画面、どこか懐かしい柔らかな色彩、モダンな風情が、雪岱の“密やかな美”の世界を象徴している。
日本画家として再評価されるにふさわしい作品群も。日本画の松岡映丘(1881~1938年)との交流を通じ、模写や合作に携わった経験は、雪岱の線描や俯瞰の構図、美しい色づかいの基礎を形づくった。本展では、初期から晩年までの肉筆作品を展示し、装丁や挿絵の影に隠れがちだった日本画家・雪岱の魅力に光を当てる。映丘らとの共作「草枕絵巻」(1926年ごろ、前期展示)や「十二ケ月連幅」(1935年、2月3~22日展示)は、その到達点的作品と言えよう。
装丁家・挿絵画家としての仕事も見どころだ。1914年、泉鏡花の「日本橋」でデビューして以降、雪岱は約200冊の書籍装丁を手がけた。物語の世界観を的確に視覚化した意匠は高く評価され、印刷技術の進歩とともに花開いた装丁文化の担い手となった。





