「チェコの国民的画家」や「チェコ絵本の父」などと称されたヨゼフ・ラダの、日本で初めての大規模な回顧展が、市立伊丹ミュージアム(兵庫県伊丹市)で開催されている。2026 年6月7日(日)まで。
「なかなか日本では見ることができないものばかり。長年温めていた企画で、10数年越しでようやく実現しました」と話すのは、同ミュージアムの岡本梓学芸員。日本でも「チェコ」と銘打った展覧会が開催されることがあるが、ラダの作品展示は数点のみ。今展では、これまでチェコ国外にあまり出ることがなかった遺族のコレクションを中心に200点以上が展示される。

ヨゼフ・ラダ(1887−1957)は、プラハ南東の小さな村フルシツェで、貧しい靴屋の息子として生まれた。幼い頃に右目を失明するが、絵をほぼ独学で学び、明瞭な輪郭線と色彩による独自の画風を確立した。19歳の頃に、新聞雑誌の風刺画を描くようになり、小説『兵士シュヴェイクの冒険(ヤロスラフ・ハシェク著)』の挿絵を手がけたことで、有名になった。「新聞雑誌は求められるものを早くたくさん描かないといけない。そういうことを訓練のようにやったことで画力が鍛えられた。本の作家から依頼が入ってもいろいろな手法で描くことができた。彼の芸術のベースには風刺画家としての仕事があります」と岡本さんは話す。
会場には、風刺画や小説の挿絵のほか、こどものために制作した絵本とその原画や、40代から描き始めたという絵画などが並ぶ。
絵画は、生まれ故郷の美しい情景を親しみをもって描いたものが多く、チェコの人にとって懐かしい郷愁を映し出している。そこに描かれた子どもたちの表情も豊かで、その声が聞こえてくるような優しさを感じることができる。岡本さんは「文化は違いますが、日本人も古き良き農村や自然を楽しむ姿勢は共通しているので、親しみを感じるのではないでしょうか」と分析する。
そして「色鮮やかな絵画も魅力的なのですが、真骨頂は単線の挿絵だと思います。線はすべて手描きなので、微妙にブレがあって真っ直ぐではない。修正の跡も見られますが、モノクロの線だけで表情豊かな絵を描いているのはすごい。その明瞭な輪郭線は、絵画や絵本の原画でも見られます。これがラダの最大の特徴であり、それをよく表しているのが『兵士シュヴェイクの冒険』です」と話す。
また、ラダは自身の娘にせがまれて聞かせていた話を創作童話として出版。『黒ねこミケシュのぼうけん』や『きつねものがたり』は日本でも馴染みの深い作品となった。このほかチェコの民話やおとぎ話を絵本にする仕事にも取り組んだ。
ラダの作品には、動物と人間が共に暮らす世界が登場する。『黒ねこミケシュのぼうけん』は、ミケシュがおばあさんの壺を割ってしまい、もうここにはいられないと旅に出る。サーカス団入って活躍し大成功を収め、地元に戻って家を建てるというストーリー。「小さな農村で生まれたラダ自身の姿を重ねていたのかもしれません」(岡本さん)。




