1990年代の英国アートシーンを振り返る大規模展「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」が、京都市京セラ美術館(京都市左京区)で開かれている。英国を代表する国立美術館の1つ、テート美術館のコレクションを中心に、50人を超える作家による約90点を展示し、現代アートに大きな影響を与えた「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)」とその時代を多角的に紹介する内容だ。
YBAとは、1980年代末から90年代にかけて英国で登場した若手芸術家たちの総称。1988年にダミアン・ハーストが企画した伝説的な展覧会「フリーズ」を契機に注目され、既存の美術制度にとらわれない自由な発想と大胆な表現で世界のアートシーンを席巻した。展覧会では、ダミアン・ハースト、トレイシー・エミン、ヴォルフガング・ティルマンス、コーネリア・パーカー、サラ・ルーカスらをはじめとする代表的作家の作品が一堂に会する。
本展は、単なる作品紹介にとどまらず、1990年代英国の社会や文化の変化とアートとの関係を浮かび上がらせている点が特徴。サッチャー政権後の社会変容、多文化社会の進展、都市再開発、若者文化の隆盛などを背景に生まれた芸術表現を、6つのテーマと3つのスポットライト作品で読み解く。
序章「フランシス・ベーコンからブリットポップへ」では、20世紀を代表する画家フランシス・ベーコン(1909~92年)の作品を起点に、90年代の新世代作家たちへ受け継がれた表現精神を紹介。暴力や苦痛、人間の内面を直視したベーコンの姿勢が、後のYBAたちに与えたインスピレーションを提示する。第1章「ブロークン・イングリッシュ:ニュー・ジェネレーションの登場」では、社会格差やアイデンティティーの揺らぎをテーマにした作品を展示。ギルバート&ジョージらの作品を通して、多文化化する英国社会と若い芸術家たちの問題意識を浮かび上がらせる。

第2章「おおぐま座:都市のイメージをつなぐ」では、経済不況や産業衰退によって変貌した都市風景に注目。ジェレミー・デラーやヴォルフガング・ティルマンスらの作品を通して、都市に漂う孤独感や社会変化へのまなざしを描き出す。90年代英国カルチャーの熱気が伝わってくるのは、第3章「あの瞬間を共有する:音楽、サブカルチャー、ファッション」だ。ブリットポップやレイヴカルチャー、ファッションなどを紹介。大人世代の記憶にある音楽や若者文化とアートの密接なつながりを感じ取ることができる。

最初のスポットライトであるトレイシー・エミンの映像作品「なぜ私はダンサーにならなかったのか」は見どころの1つ。自身の青春時代の苦悩と再生を語る自伝的な内容で、フェミニズムや女性の自己表現とも深く結いた作品だ。作者が育った海辺のリゾート地が映し出され、10代のころの苦しみについて自ら語る前半とは対照的に、後半、ヒット曲に合わせて踊る姿が印象に残る。第4章「現代医学」は、身体や病、メンタルヘルス、エイズ危機といったテーマ、第5章「家という個人的空間」では、家庭や家族、ジェンダー観を主題とした作品が並ぶ。





