あおり運転、20年前から かけがえのない弟を失って…『空色リボン』に託す神戸の女性 | ラジトピ ラジオ関西トピックス

あおり運転、20年前から かけがえのない弟を失って…『空色リボン』に託す神戸の女性

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 坂口真弓さん(神戸市長田区)の弟・悟さんは2000年、当時18歳の少年と車の通行をめぐるトラブルになり、少年が急発進させた車にはねられ、命を奪われた。そのトラブルとは…

坂口真弓さんと弟の悟さん(写真・坂口さん提供)
坂口真弓さんと弟の悟さん(写真:坂口さん提供)

 車間距離を開けずに後ろから車であおってくることを、地元・神戸では「ケツベタ」という。「いま思えば、あれが『あおり運転』だった」坂口さんは振り返る。

「いまはドライブレコーダーが普及して動画そのものが“見える証拠、物的な証拠”としてひと目でわかりますからね。可視化されている。当時はそんなものはなかった」

「2017年に起きた東名高速道路の事件をめぐる一連の報道に接して、弟が犠牲になった事件は『あおり運転』が原因だったんだと確信した」


 事件後、家庭裁判所に送られるも検察に逆送致され、大人と同じように刑事裁判を受けた少年の公判記録などをたどった。ケツベタをされて、当然憤った悟さんは車から降り、トラブルは最悪の結末を迎える。少年は車を急発進させる。悟さんは必死にボンネットとワイパーにしがみつくも振り落とされ、轢き殺されてしまった。なぜ悟さんが殺められたのか…

坂口真弓さん
加害少年の公判を振り返る坂口さん
坂口悟さん
弟・悟さん(写真:坂口さん提供)

 確かに悟さんは低速で運転していた。後続の車を運転する少年はイライラ、助手席には少年の交際相手の女性がいた。『あんたは、いっつも口ばっかりや』と普段よく言われていたので、ここで逃げたらまた同じことを言われると思い犯行に及んだ。

「ほんとうに、つまらない理由だった」坂口さんはいまだに怒りを隠せない。

 ミレニアム・イヤーとして盛り上がっていた2000年、日本の刑法犯認知件数がピークへと向かう。社会全体として犯罪抑止に向けた取組みは不十分で、犯罪被害者へのサポートも整備されていなかった。
(※全国の刑法犯認知件数は2002年の約285万4000件がピーク。それ以降2019年まで17年間連続して減少傾向にあるが、かつての路上犯罪や粗暴犯といったものからサイバー空間での犯罪や児童虐待、DV、特殊詐欺など犯罪の態様は大きく変化している)

 坂口さんは事件後、PTSD=心的外傷後ストレス障害を発症。体や心に様々な異変が起きた。いまも完全には治っていない。

 運転していた少年には懲役5年以上8年以下の不定期刑が言い渡され、懲役7年6か月の刑期を終えて出所した。

 悟さんの命日に訪ねてきた出所直後の少年に、坂口さんは1冊のノートを渡した。毎日、自分が気付いたことを記してほしい、心境の変化や懺悔、何でもよかった。1年後、ノートは1冊半に及んでいた。坂口さんが少年に会ったのはこれが最後になった。

「加害者より、被害者やその遺族のほうがどれだけつらい思いをしているか」

 少年は友人から投げ掛けられたこの言葉を記した。そのとき坂口さんは少年に「出所して1年と少し経ったけど気持ちのうえではどう?」と聞くと、少年は少し涙声になりながら「家族の大切さがわかりました」と答えたという。それを聞いて返したのが『悔しいけど、良かったね』という言葉だった。その理由は……

「『俺、自分の家族好きやねん』と言っていた悟の命は、この加害者に奪われたのに、その悟の命を奪った加害者は、悟の命を奪ったことで『家族の大切さがわかった』と言っている。悔しくて悔しくてたまらないけど、『家族が好きや』と言っていた悟の命が無駄にならずに済んだ、と思ったから。これが嘘偽りない私の気持ち。家族好きの悟は自分の命を奪った者にすら、家族の大切さや大事な人の大切さを伝えたんやな」

 はじめは言葉に詰まったが、すぐにそう思えるようになった。親、子ども、きょうだい、夫、妻……かけがえのない家族を失った悲しさやつらさを知るからこそ。その一方で、坂口さんは「そういったことをした人間がもう一度免許を持つこと自体は許せない」とあおり運転の厳罰化を望んでいる。

 事件から20年……また2月の命日がやってくる。

 残された悟さんの愛娘はことし23歳に、加害者の少年は38歳になる。この20年、犯罪被害者やその家族を取り巻く環境は改善されたのか? 2004年には犯罪被害者等基本法が成立、被害者の涙ぐましい活動が実を結び、犯罪被害者が生きて行くためのスタートラインにようやく立つことができた。全国の自治体でもそれぞれ犯罪被害者に向けた支援条例が制定される。坂口さんの地元・神戸市でも2013年に施行、坂口さんもそのプロセスに立ち会った。正当な理由なく被る経済的な損失、精神的な苦痛、心身の不調、プライバシーの侵害、またマスメディアによる様々な報道被害など犯罪被害者は二次被害に苦しんでいる。

 しかしこうした被害から守る法律を形だけのものにしてはいけない……。「仏つくって魂入れず、では意味がない」犯罪被害者支援に先駆的な明石市の泉房穂市長は力説する。

 かけがえのない弟を失って20年、愛する弟の2月の命日を前に坂口さんはあるプロジェクトを思い立った――。

『空色リボン』

空色リボン
『空色リボン』は1月23日午後、神戸と堺で配布される(写真:ラジオ関西)

 児童虐待防止のシンボルにオレンジリボン、女性への暴力反対のシンボルにパープルリボンがある。しかし、犯罪被害全般のシンボルはなかった。私たちが見上げる空は世界中につながっている。坂口さんをはじめ犯罪被害者9人が大切な人を思うときに見上げていた空をイメージして、去年(2019年)から制作を始めた。

「性犯罪や虐待、いじめなども含め、被害に遭って悲しむ人がいなくなるように。願いはただそれだけ」。理屈ではない、人として向き合っていきたい。手作りのリボンの温かさがそこにある。

『空色リボン』は1月23日(木)の午後1時から神戸・三宮センター街で配布。

空色リボン プラカード
『空色リボン』配布時にはこのプラカードを着けて…(写真:ラジオ関西)
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