現代でも契約の神として、大切な契約を成立させたい時や物事を成就させたい時などに参拝される方が後を絶たないそうです。下鴨神社では毎年10月1日、「印章の日」を記念して、永年使用した古い印章を奉納する「印章祈願祭」が執り行われます。私も何度も参列しましたよ。
そんな文化をはぐくんだ日本。令和の時代になり『脱ハンコ』。 それはそれでかまわない。 確かに「サインでいいんじゃいか」という声もよく聞きます。でもハンコを完全になくして、それでいいのかなあと思いますよ。サインだけで済ますのは絶対にだめ。例えば5年前にご自身で書かれたサインと、いま書かれたサインを見比べてください。筆圧や形が違います。特に40歳を過ぎると男女問わず腕の筋肉が弱まりますから。サインはするけれども、そこに「形が不変の」印章=ハンコを押すから照合できるんだと思いますよ。ハンコ文化を守るというよりも、日本の場合は漢字の歴史とも連動します。漢字を残すのか、ハンコを残すのか、いやぁ、どちらも無くせないですよ。
おかげさまで私は3年前(2017年)、優秀な職人に贈られる「ひょうごの匠」に印章彫刻部門で選んでいただきました。そうしたご縁で兵庫県立ものづくり大学校(姫路市)で石のハンコ作り「篆刻(てんこく)」を中学生に教えています。そうすると、漢字の書き方や漢字の成り立ちも教えることになる。「篆書(てんしょ)」という書体を中学生に見せるんですよ。
篆書体は日本で最も古い書体とされ、その起源は中国の秦の始皇帝が全国を統一した際に制定した文字といわれています。中学生はすごく興味を示します。3千年も4千年も続いた文字を見て。文字というメッセージというのかな、文字が発しているという意味では漢字も大事だし、ハンコも大事ですよ。そらぁ、わかりますやろ。これが文化なんですよ。
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次回(10月24日)は若手・女流書道家に『脱ハンコ』時代~伝承文化との関わりを聞く。