製薬会社が軒を連ね、文豪・谷崎潤一郎の「春琴抄」などの舞台にもなった大阪・道修町(どしょうまち)の少彦名(すくなひこな)神社で恒例の「神農祭(しんのうさい)」が11月22日・23日に開かれた。
少彦名神社に祀られる神は、日本の医薬の神「少彦名命(すくなひこなのみこと)」と中国の医薬・商売の神「神農炎帝(しんのうえんてい)」。開闢(かいびゃく)は安永9年(1780年)で、今年240年目を迎えた。
少彦名神社には、コレラの最初の世界的大流行が日本に及んだ1822(文政5)年に、虎の頭の骨を配合した『虎頭殺鬼雄黄圓(ことうさっきうおうえん)』という丸薬を作り、お守りの”張り子の虎”=神虎を配ったところ、病気が平癒したといういわれがある。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、全国からその収束を願う祈りが届いている。
アメリカ製薬大手・ファイザー社は20日、新型コロナウイルスワクチンの安全性に関する十分なデータが蓄積されたとして、アメリカ食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可を申請した。ワクチンについてファイザー社は11月、臨床試験の初期の結果を公表し、90%以上の効果が認められたと発表している。
さらにアメリカのバイオテクノロジー企業・モデルナ社も16日、開発中の新型コロナの新たなワクチンについて、95%近い有効性を示す初期結果のデータが得られたと発表した。
有効なワクチンの出現が現実のものとなるのか、慎重に見守りながら、それぞれがコロナの世界的流行(パンデミック)の終息を祈願した。「神農さん」と呼ばれ親しまれる祭りは、大阪市の無形文化財(民俗行事)に指定され、神農むすめと呼ばれる巫女が参拝客に”張り子の虎”=神虎(しんこ)を授与した。
「ワクチンができれば、確かに安心です。私たちシニア世代は持病を持っている方々も多いですから。コロナがなくなるということはまず難しいです」(70代女性・芦屋市)
「まさか、こんなに長い期間に及ぶとは…早くワクチンが開発されたら、と思いますよ。でないと、かつてのように経済活動が活発にならないし、ますます景気も落ち込むし。でも、急いで開発することで副作用の問題が出てきたら怖いですし。安全なワクチンができることを望みます」
(30代男性・大阪市中央区)
「この道修町の製薬会社の近くに勤めてましたので、ずっとお詣りに来ています。ことしは神農祭が開催されるか心配でしたが、来させていただけて嬉しいです。ワクチン開発、やはりしっかりと臨床試験をしたうえでないと、朗報は朗報ですが、ちょっと早いんじゃないかな、と思うのは私だけでしょうか?」(40代女性・吹田市)
大阪の秋の祭事で「〆めの祭」とされる神農祭。例年ならば神社周辺では露店が出て賑わいを見せるが、今年は出店は中止。近隣の製薬会社などのゆるキャラが集合するイベントも開催を見送り、終日、ソーシャルディスタンスを守った参拝を呼び掛けた。