新型コロナの影響は計り知れず、とかく心が落ち込みがちだった2020年。6月には津曲さんを一番弟子としたエーデルワイスの創業者で会長の比屋根毅(ひやね・つよし)さんが他界、寂しい年となった。しかし津曲さんは「おいしいものは、コロナに負けない。絶対負けない」と言い切る。「やはりお客様に喜んでいただくために、一生懸命尽くせば、むしろこういう時に来ていただける。たとえ10人のお客様が1人、2人になっても。おいしいものは人の脳を通じて心を和らげる魔術がある」と話す。
「ちょっとメモをかしてごらん」と言われ、差し出すと……『味(み)えない味(あじ)が魅(み)える』としたためた津曲さん。見えない味が、その魅力。人も洋菓子も。
津曲ことば、という語録がある。「あきない(商い)とはあきない(飽きない)商品を作り続けること」「お客様の期待を超える感動を」「客の声、一番確かなアドバイザー」。インタビュー取材に伺ったのはクリスマス前の繁忙期。人と味をつなぐ甲陽園の名パティシエが、スカーフを巻き、白いコック帽をかぶり、エプロンの紐をキュッと締めた。「さあ、これから工房でケーキの仕上げ。ではまた!」
◆津曲 孝(つまがり・たかし)
1950(昭和25)年、宮崎県串間市出身。1972(昭和47)年「株式会社エーデルワイス」入社、「株式会社アンテノール」代表取締役社長と「株式会社エーデルワイス」取締役製造本部長を兼任。1987(昭和62)年、西宮市甲陽園本庄町に「ケーキハウス・ツマガリ」独立開業。兵庫県知事より「技能顕功賞」、「西宮市民文化賞」を受賞、このほか厚生労働大臣より“卓越した技術者”に与えられる「現代の名工」などにも選ばれる。
