明らかに、震災を知らない世代になりますよね。この世代としては「そのときの記憶を決して忘れてはならない、語り継ぐ方々のお話に耳を傾けよう」という教育を受けてきました。被災された方々の思いは想像することしかできませんが、書道を通して何かできないかと考え、大学4年の1月、神戸市営地下鉄・谷上駅のドームギャラリーに「しあわせ運べるように」と書いた作品を展示しました。兵庫高校OBの提案で実現した、自ら立ち上げた書道教室の生徒さんと神戸の書道家や写真家との合同展でした。
震災翌年に生まれた私は、幼い頃に長田区の大正筋商店街のようすや菅原市場で焼け残ったアーケードの写真を見て、ただただ悲しかったことを記憶しています。小学校では「私たちの神戸」という教科書を用いて震災に関する授業を受けました。(教科書「私たちの神戸」は神戸市小学校教育研究会・社会科部や神戸市教育委員会が編纂、震災の時の神戸の街の様子や防災教育、避難訓練について記されている)
自然の脅威は私の力で食い止めることはできません。明日何が起こっても後悔をしないように、一日一日を大切に過ごしています。これからの神戸は、三宮駅周辺の景色が変わったり、新長田に庁舎ができたりと、面影を残しながらも少しずつ新しい街へと変化しています。今の生活拠点は大阪で、大阪や京都の書道教室などで指導していますが、定期的に神戸に帰って震災を忘れないための活動をしていきたいと考えています。そういうこともあり、今は神戸の学習塾の書道クラス(幼児・小学生クラス)の非常勤講師として週に1回出向きます。
■神戸から世界へ。震災を知らない世代が伝えるもの
デザイン都市・神戸。ふるさと神戸の高校で仮名書道を中心に学ぶことができたのは今、大きな経験となっています。単に夜景が美しい港町ではなく、街のあらゆるシーンが「デザイン」されている。山と海が接近して整然とした街って、日本中探してもなかなかないですよね。いまや日本の書道も国際的になりましたが、そのような中でも、仮名は日本にしかない文化です。日本独自の文化である仮名書道の魅力を世界に広める方法を日々試行錯誤しています。
これまでに多くの書道の先生方にお世話になり、書道の専門分野も「仮名」から「書道理論」へ、そして現在では「中国書法」を中心に研究しています。どの分野を探求するにあたっても共通しているのは、中国の漢字から仮名への変遷の過程の重要性です。漢字の語源を意識したうえで現在の仮名の字形が確立したこと、そして漢字の語源が意識されている仮名の書き方を広げる書道教育に力を入れていきたいと思います。