江戸は段飾り 京阪は御殿飾り 「雛まつり~江戸と明治のお雛さま~」 学芸員によるリモート・ミュージアム・トーク | ラジトピ ラジオ関西トピックス

江戸は段飾り 京阪は御殿飾り 「雛まつり~江戸と明治のお雛さま~」 学芸員によるリモート・ミュージアム・トーク

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 人々の様子も観察してみましょう。雛料理が盛られた黒漆塗り金蒔絵の祝い膳を子どもたちに振る舞おうとしている母親、お膳を囲んでままごとにふける少女たち、盃やお椀を三方にのせて歩いている子、赤ちゃんを抱いた若い娘や「立ち雛」を持ち遊ぶ子も居ます。花の香り、お料理の匂い、子どもたちの歓声、「お行儀よくしなさいよ」とたしなめる母親たちの声……。見る者の五感が刺激され、江戸の町で発展を続ける雛まつりのにぎわいが画面からあふれてくるような素晴らしい作品です。

●京阪で優勢だった「御殿飾り」

 この浮世絵が描かれたころ、随筆家の喜田川守貞は『守貞謾稿(もりさだまんこう)』の中で京阪と江戸の雛飾りの違いを次のように記しています。要約すると、「京阪の雛遊びは、二段のほどの段に緋毛氈をかけ、上段には 幅一尺五寸六寸、高さもほぼ同じ位の屋根のない御殿の形を据え、殿中には夫婦一対の小雛を置き、階下の左右に随身と桜橘の二樹を並べて飾るのが普通である。また近年は豆御殿と名づけて屋根のある御殿も作られている。――江戸では、段を七、八段にして上段に夫婦雛を置く。しかし御殿の形は用いず、雛屏風を立廻して一対の雛を飾り、段には官女、必ず五人囃子を置く――」と。

 このように江戸を中心に「段飾り」が発展する一方、京阪では「御殿飾り」が優勢でした。京都では、内裏雛を飾る館のことを御殿といいますが、その中に一対の雛を置く形式を「御殿飾り」と呼びました。屋根のある御殿に先んじて、屋根のない「源氏枠御殿」が用いられていたことも、この文献からわかります。源氏枠御殿は、「源氏物語絵巻」の“吹き抜き屋台”という構図にも似て、建物の中の人形たち表情がよく見え、明るい印象の雛飾りです。

 御殿を御所に見たてるところから、桜橘の二樹も登場し、御殿の主人にお仕えする官女、警護にあたる随身(左大臣・右大臣)、庭掃除や調理などを担当する仕丁(三人上戸)などの添え人形も、役割を帯びて登場してくるのです。私たちのよく知る内裏雛、三人官女、五人囃子、随身、仕丁たち15人組の雛飾りは、江戸と京阪の人形や飾り方が合体したものといえます。

写真②御殿飾り雛(明治20~30年代ごろ)
御殿飾り雛(明治20~30年代ごろ)
写真③御殿飾り雛展示風景(明治中期ごろ)
御殿飾り雛展示風景(明治中期ごろ)

 平安貴族社会の“雛遊び”を思わせるような京阪地方の御殿飾りは、やがて、明治時代になると大型化し、家の権勢を誇るような贅を尽くしたものも登場します。(日本玩具博物館 学芸員・尾崎織女)

■日本玩具博物館
〒679-2143 兵庫県姫路市香寺町中仁671-3
電話 079-232-4388

入館料 大人600円、高大生400円、小人(4才以上)200円
休館日 毎週水曜日(祝日は開館)、年末年始(12月28日~1月3日)
開館時間 10:00~17:00
アクセス JR「姫路」駅から播但線に乗り継ぎ「香呂」駅下車、東へ徒歩約15分 / 中国自動車道路「福崎」インターチェンジから南へ15分、播但連絡道路「船津」ランプより西へ5分


【公式HP】

◆「雛まつり~江戸と明治のお雛さま~」 学芸員によるリモート・ミュージアム・トーク
(1)雛人形に見る「京阪好み」と「江戸好み」
(2)あなたは「京阪好み」「江戸好み」?
(4)雛道具に見る江戸と京阪の違い

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