乗客106人が犠牲となったJR福知山線脱線事故から16年を前に、遺族や有識者が、鉄道や航空などの重大事故で企業の刑事責任を問う「組織罰」の必要性を訴えるブックレット(冊子)「組織罰はなぜ必要か~事故のない安心・安全な社会を創るために」を出版する。(※記事中の会見写真は、撮影用として一時的にマスクを外していただいています)
現在の日本の法体系では、こうした責任は民事訴訟でしか問えない。福知山線脱線事故で当時23歳の長女を亡くした大森重美さん(72・神戸市北区)ら遺族は「安全に対する企業の意識の変えるには『組織罰』が必要だ」と話す。組織罰は、鉄道・航空事故などの際、運行する企業など法人自体に刑事責任を負わせる法律。イギリスの『法人故殺法(ほうじんこさつほう)』をはじめ、フランスなどでも法律が整備されている。
日本の場合、刑事裁判で事故の責任を問うのは刑法の「業務上過失致死傷罪」で起訴されたケースが主流。ただしこれは個人が対象で、法人には適用されない。大森さんらが目指すのは特別法としての「業務上過失致死傷罪」。加害企業に対する両罰規定の導入を求めている。
福知山線脱線事故では、JR西日本の歴代4人の社長がATS=自動列車停止装置の整備について企業の幹部として指示を怠ったなどとして起訴されたが、いずれも「事故現場の急カーブで運転士が速度超過するといった具体的な予見可能性はなかった。事故を予測できなかった」として、2017年6月までにいずれも無罪判決が確定した。
大森さんは遺族として刑事裁判を傍聴、自らも法廷で意見を述べた。「この事故は、組織的な殺人ではないのか」。日本では、大事故を起こしても、個人については「予見可能性」=(事故を予測できたかどうか)がなければ罪に問えず、法人も罰する仕組みがない。日本の企業は、人の命を奪う大事故を起こしても、誰の責任も問われないということでは、無責任社会を助長するだけで遺族は何も納得できない、泣き寝入りで終わってしまう。だからこそ「本当に安全な社会のシステムを確立するために、組織を処罰する法律が必要だ」と訴え続ける。
大森さんらは2016年に「組織罰を実現する会」を立ち上げた。同じく加害企業(中日本高速道路=NEXCO中日本)の刑事責任が問う中央自動車道・笹子トンネル天井板落下事故(2012年)の遺族、松本邦夫さん(70・芦屋市)らとも連携し、法制化を求める署名活動などに取り組んできた。しかし組織罰の導入には「企業活動を萎縮させる」「罰則を設けると企業が処罰を恐れ、真相究明のための協力を得られなくなる」などの慎重な意見もある。
松本さんは「事故は2つとして同じものはない。組織が起こす事故は、利益優先という企業の本質が問われるもの。笹子トンネルi板落下事故の本当の原因は、何としてもインフラを完成させたいという『企業の論理=利益優先』と『国民の安心・安全』とを天秤にかけ、利益優先を取ってしまったことが根底にあるのではないか」と指摘する。