天才作曲家・大澤壽人のボストン留学から90周年となる特別企画で、生誕の地における初の回顧展「大澤壽人 神戸からボストン・パリへ 1930-1953」(~2021年12月12日)。展示は2020年4月からの予定だったが、コロナ禍のため半年遅れた2020年10月に始まり、異例のロングラン開催となった。
生島さんは今回の展示について、サブタイトル「世界への飛翔―天才作曲家の足跡」が示すように、戦前に西洋音楽の中心地を目指し、大成功した大澤の生涯と音楽活動をたどりながら、日本が誇るこの偉人の存在を地元の方々に是非知っていただきたいとメッセージを送る。大澤が47歳で急逝したこと、それが戦後まだ8年という時期であったこと、これらによって、生前に大活躍したにもかかわらず彼はあまり知られていない。会場の民音音楽博物館・西日本館は新型コロナウイルスの感染拡大防止に配慮して休館した期間もあったが、ロングラン開催でこれまでに来場した約2000人(※主催者による)は、何かしら大澤について印象づけられたという。
自筆の楽譜の展示(2021年10月は「ピアノ五重奏曲 ハ短調」、11~12月は「ペガサス狂詩曲」)や、解説パネル、映像付きCD視聴コーナーによって、大澤の業績と作品を眼と耳で「体感」できるよう、会場の細部まで配慮した。戦後、ジャズの要素も取り入れるようになった大澤が、往年の宝塚スター・越路吹雪のために編曲した「ビギン・ザ・ビギン」にちなみ、洋画家・田村孝之介が描いた「大澤壽人と越路吹雪」は貴重だ。合わせて150点近くもの資料が展示されている。
■神戸で生まれ育った大澤壽人の偉大さ、後世に
生島さんは大澤の作品を聴いて、「時を超える音楽の力」を実感する人が多いと話す。CD化された作品の多くは、1930年代にボストンやパリで作曲されているが、現代でも多くの人が斬新さを感じるという。昭和初期、90年もの前の作品が、令和に生きる私たちをも動かす「音楽の命」を保っていること。それが大澤の魅力であり、日本洋楽史において大澤の再評価が進む根底にある。
海外における戦前の大活躍から一転して、帰国後の大澤は、戦争期の困難に直面したが、芸術家としての信念を貫いて、音楽で人々の”心の復興”を目指した。コロナ禍で生きる今の私たちに、先人としての大澤は「音楽の真の力」を示している。だからこそ、大澤が音楽の教科書に記される日まで、彼の存在と作品について、生誕地・神戸からの大きなムーブメントとして、大澤壽人の素晴らしさを後世に伝えられたらと願っている。