ダニエル・クレイグ最後の主演 シリーズ第25作は”ボンドガール”が変化? 『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』レビュー

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『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』が、いよいよ公開となりました。ダニエル・クレイグが5回目にして自身最後となるジェームズ・ボンドを演じ、『ボヘミアン・ラプソディ』でアカデミー賞を獲得したラミ・マレックが悪役として登場することも話題です。今作を、映画をこよなく愛するラジオパーソナリティー・増井孝子さんが解説します。

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ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』10月1日(金)全国ロードショー © 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

 待ちに待った「007」シリーズの25作目。コロナ禍による3回の延期を経て、10月1日にやっと公開された! 国内の週末興行ランキングでは、もちろん堂々の第1位を記録。土日の2日間で28万人、初日の金曜日も含めると実に42万人が劇場に足を運んだそう。

 主演のダニエル・クレイグは6代目のジェームズ・ボンドだ。『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)から今作まで、15年間にわたり5本の作品でボンドを演じ続けてきた。そして今作が、彼にとって最後の007となる。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』10月1日(金)全国ロードショー© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』10月1日(金)全国ロードショー© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

 誰が演じたボンドがお気に入りかは、映画好きの間でも盛り上がる話題だ。初代のショーン・コネリーから、ジョージ・レーゼンビー、ロジャー・ムーア、ティモシー・ダルトン、ピアース・ブロスナン、そしてダニエル・クレイグまで。歴代6人のボンドの中で“推し”は人それぞれだろうが、ショーン・コネリーは別格として、1番の好みに挙げる人が多いのがダニエルだ。

 しかし、彼がボンド役に選ばれたときには「金髪で青い目のボンドなんて……」と大ブーイングが起きた。覚えている人も多いかと思う。それはもうひどい罵詈雑言が飛び交っていた。当時のことは、某サブスク(サブスクリプション)情報メディアで公開されているドキュメンタリー映画『ジェームズ・ボンドとして』(2021年)に詳しく描かれている。

 そんな彼が、いかにして多くのファンの心をつかむようになってきたか……というより、『007/カジノ・ロワイヤル』でいきなりファン納得のボンドを演じることができたのか。それは、彼の演技力や大変な努力があったのはもちろんのこと、時代にマッチした“生身のボンド”を現出させる作品づくりも大きく影響したのではないだろうか。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』10月1日(金)全国ロードショー© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』10月1日(金)全国ロードショー© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

 007作品は社会の変化に呼応している。ここのところ、社会変革のスピードは格段に上がった。特にジェンダーや多様性に関してのスタンスが如実に変化してきている社会的背景からか、今作は女性陣もひと味違う。これまで“セクシーでゴージャス”、“男性に守ってもらう存在”として描かれてきたボンドガールたちが、ともに闘う仲間としての「ボンドウーマン」と呼ばれるようになってきたのだ。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』10月1日(金)全国ロードショー© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

 まず、ボンドの引退後“007”として活動中のエージェント・ノーミ(ラシャーナ・リンチ)。彼女が007と呼ばれていることに驚くボンドに対し、「永久欠番だと思ってた? ただの番号よ」と言い放つ。そういえば、次のボンドは女性だというニュースが流れてきて「まさか」と思ったのだが、こういうことだったのかとちょっと納得した。アフリカ系であることも、イマドキだ。多様性社会への意識を感じさせる。

ノーミ(ラシャーナ・リンチ)『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』10月1日(金)全国ロードショー© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

 次に、キューバでのボンドの相棒・パロマ(アナ・デ・アルマス)。彼女は、エレガントなロングドレスにピンヒールで迫力あるアクションをこなすCIAのエージェントだ。

パロマ(アナ・デ・アルマス)『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』10月1日(金)全国ロードショー© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

 そして、前作に引き続き登場するマドレーヌ(レア・セドゥ)。彼女こそ、ボンドにMI6(「Military Intelligence section6《軍情報部第6》」のこと。「SIS《イギリス情報局秘密情報部》」の通称)を辞職し、現役を退いて、ともに平穏な日々を送ることを決意させた運命の女性なのだ。ただ彼女の素性には謎の部分があり、その彼女の過去が、オープニングの前のプレタイトルシークエンス(タイトルバックが現れるまでに流れる、いわゆるプロローグ)で明かされる。

マドレーヌ(レア・セドゥ)『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』10月1日(金)全国ロードショー© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

 さらに、“最凶”のヴィラン(悪役)・サフィン役には、『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)でクイーンのフレディ・マーキュリーを演じてアカデミー賞主演男優賞に輝いたラミ・マレック。能面、石庭、盆栽……。和のテイストと静かなたたずまいが、よりいっそうの恐ろしさを醸し出すのが印象的だ。

サフィン(ラミ・マレック)『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』10月1日(金)全国ロードショー© 2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

 作中に日本的なイメージが取り入れられたのは、監督・脚本を担当したのが日系アメリカ人、キャリー・ジョージ・フクナガだということも影響しているのだろう。20代の初めごろ半年間ほど北海道に住み、スノーボードを楽しんだり、英語やフランス語を教えたりした経験を持っているらしい。最初の発表では、『トレインスポッティング』などで知られるイギリスのダニー・ボイル監督が撮るとされていたところ、創作上の意見の相違があり降板した。そのあとを受けての登場だったにもかかわらず、期待以上の作品に仕上げた演出はさすがだ。

 音楽も外せない。主題歌を歌うのは、第62回グラミー賞で主要4部門を含む5部門を受賞したビリー・アイリッシュ。愛の哀しみをうたい上げた表現力が出色。そして今作はもう1曲、心に残る曲が使われている。ルイ・アームストロングの『We have all the time in the world(邦題:愛はすべてを越えて)』だ。ボンドとマドレーヌがマテーラの町を愛車・アストンマーティンで走るシーンに加え、エンドロールでも流れる。実は、『女王陛下の007』(1969年)で、ボンド(ジョージ・レーゼンビー)とテレサの車でのハネムーンのバックに挿入歌として流れるのが、この曲だった。今作ではそのタイトルと同じ「We have all the time in the world」とのセリフが出てきて「時間はいくらでもある」と訳されているのだが、『女王陛下の007』のときと同様、2人の時間がいくらもないことが伝わる憎い描き方で、『女王陛下の007』へのオマージュともなっている。

 先述のように車はアストンマーティン、そして銃はワルサーPPK、時計はオメガのシ―マスター、衣裳はトム・フォード。ますます渋みを加えて素敵になってきたダニエルのボンドがもう見られないと思うと胸がつまる。

 アクションもスゴイうえ、泣けるボンド作品『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』。ぜひ、画面が大きく音響のいい劇場で~!!

※ラジオ関西『ばんばひろふみ!ラジオDEショー!』、「おたかのシネマdeトーク」より


【『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』公式サイト】

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