「負ければお前の妻も死罪だぞ」
「偽りとわかれば火あぶりの刑だ、生きたままで」
もしも夫が負ければ、マルグリットまで偽証の罪で火あぶりの刑を受けることになります。裁かれるのは誰なのでしょうか……。
作品の題材は当時、現実に行われたフランス最後の決闘裁判です。誰が事実を語ったのか歴史家の間で議論が分かれ、真相は今も明らかになっていません。
この時代は、市民の生活の隅々にまで騎士道精神や権力構造が浸透していました。国王は当時ティーンエイジャーで、教会の指導者や王宮の貴族ら有力者に逆らうことは命がけでした。女性は法的に地位を与えられず、夫の社会的立場にすがるしかありませんでした。
この映画は新しい方法で真実を明らかにしようと、三部構成になっています。同じエピソードを登場人物の視点で角度を変え、3回繰り返して描きます。
第一幕は、被害者の夫・カルージュの視点。第二幕は訴えられた被告人ル・グリの視点。第三幕が事件を告発した被害者・マルグリットの視点です。
リドリー・スコット監督は今作の脚本について、黒澤明監督が同じ事件を登場人物ごとの視点で描いた『羅生門』を挙げ、「私がこの作品にひきつけられたのは、まさにこのポイントだったんだ」と語っています。