秋、新酒しぼりの季節。
日本一の酒どころ、灘五郷の1つ、西宮郷の白鹿記念酒造博物館(兵庫県西宮市鞍掛町・運営/辰馬本家酒造)の玄関先に28日、青々とした新たな「酒林(さかばやし)」がつるされた。
杉玉とも呼ばれる酒林は杉の葉を束ねたもので、江戸時代には酒屋の看板として軒先に吊るされていた。杉は酒の神様をまつる大神(おおみわ)神社(三輪明神・奈良県桜井市)のご神木で、酒屋にとっても神聖なもの。杉材は伝統的な酒づくりの道具にも多く使われている。樽酒の絶妙な風味はその恩恵だ。
この時期に付け替えられる酒林は新酒の季節の訪れを知らせる。すっきり辛口で芳醇な「男酒」と呼ばれる灘の酒は、西宮神社付近に湧く六甲山系の良質な伏流水「宮水」がひと役を買う。
直径約1メートル、重さ約100キロ。丹波市山南町で杉の葉を採取、製作、付け替えまで全て社員の手によるのが、辰馬本家酒造のしきたり。28日は辰馬本家酒造の令和3酒造年度(※ R3BY)の新酒を初めてしぼる「初揚げ」の日でもある。
杉ならではの癒しの香りを放つ濃い緑から赤茶色へ徐々に変わっていく様子が、酒の熟成度合いを表す酒林。そして青々とした杉の葉が清々しく香る新たな酒林に「厄難が“すぎ(杉=過ぎ)”去るように」との願いも込める。
酒林づくり10年、辰馬本家酒造・醸造部の阿部大輔さんは「コロナ禍で季節の移り変わりを感じにくい中、この酒林が出来上がると新酒しぼりの季節の始まりを自覚できます。初揚げの酒は荒々しく、とがってパンチがありますが、酒林が茶色に変ってゆくにつれて熟成され、味わいがまろやかになります。酒造りに関わる者として、この酒林作りはひとつの伝承技術。誇りです」と話す。