現役大学院生監督が神戸から送り出す映画 障がいある弟と向き合ったドキュメンタリー『僕とオトウト』レビュー | ラジトピ ラジオ関西トピックス

現役大学院生監督が神戸から送り出す映画 障がいある弟と向き合ったドキュメンタリー『僕とオトウト』レビュー

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 現役大学院生監督による映画『僕とオトウト』が劇場公開されました。重度の知的障がいがある弟と向き合ったドキュメンタリーです。監督の拠点は、映像文化の発信活動を続ける神戸の映像制作集団。今作を、映画をこよなく愛するラジオパーソナリティー・増井孝子さんが解説します。

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『僕とオトウト』(©️yuto takagi)

 その昔、映画を作るなどということは、ごく限られた一部の人にのみ許された“特権”だった。それが最近は、スマホなどで手軽に動画を撮影できるようになり、誰もが映画作家になれる時代が到来したと言える。

 問題は、“何を撮るか?”である。子どもの運動会や学芸会の記録なら、誰でもそこそこうまく撮ることができるかもしれない。そこに既に、追いかけるべき被写体とプライベートなストーリーがあるからだ。もしそうではない、誰が観ても興味が湧く普遍的なものを作りたいと思うなら、専門の学校で学んだり、実践の場数を踏んでノウハウを身につけたり、感性を磨いたりする必要が生じる。

 それらを学ぶ老若男女が神戸にいる。中心となっているのは、ドキュメンタリー作家の池谷薫氏。池谷氏は、多くのTVドキュメンタリーの演出を経て制作した劇場公開映画『延安の娘』(2002年)、『蟻の兵隊』(2006年)、『先祖になる』(2013年)、『ルンタ』(2015年) で高い評価を得ている映画監督でもある。

 甲南女子大学文学部メディア表現学科の教授に就任して神戸に移り住み、神戸・元町商店街にあるミニシアター「元町映画館」(神戸市中央区)を拠点に「池谷薫ドキュメンタリー塾」を開講したのが、2017年のこと。やがて塾生の中から映画制作を志す者が多く現れ、2018年には映像制作集団“元プロ”こと「元町プロダクション」が結成された。

 そして、“人間を撮る 自分を見つめる”をモットーに新しい映像文化の発信を始めた元プロから、初めて商業ベースに乗って劇場公開された映画が、この『僕とオトウト』だ。

 監督は、京都大学大学院人間・環境学研究科共生人間学専攻の修士課程で発達心理学と障害学を学んでいる高木佑透氏(※1)。1995年生まれ。ドキュメンタリー塾からの池谷氏の愛弟子である。『僕とオトウト』は、その彼が、重度の知的障害のある6歳年下の弟・壮真にカメラを向けたドキュメンタリー映画。時にiPhoneを使い、とっさの出来事を写し撮るなど、リアルな一瞬一瞬に向き合った兄弟の記録だ。

 子どもの頃に鍋敷きをトースターに入れてしまい家が火事になった、成長するにつれ力が強くなり親でもその扱いに困ることがある……。幼い時からやんちゃな弟・壮真を守り、一緒に育ってきた兄の自分。でも「壮真の考えていること、やりたいことを本当に分かっているのだろうか? 将来、親が亡くなったら弟の面倒を見るのは自分しかいない。とすれば、もっと弟のことを知らなくてはいけないのではないか?」


『僕とオトウト』上映予定
兵庫県:元町映画館 10/30(土)~11/5(金) 12:30~
大阪府:シネ・ヌーヴォ 11/6(土)~11/12(金) 13:45~
京都府:京都みなみ会館 ※10月にいったん終了。今後、続映。
【公式サイト】

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