兵庫県丹波篠山市の兵庫陶芸美術館で特別展「ザ・フィンランドデザイン展-自然が宿るライフスタイル」が開かれている。学芸員のマルテル坂本牧子さんによるリモート・ミュージアム・トークを紹介する。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
兵庫陶芸美術館で9月11日(土)に開幕した特別展「ザ・フィンランドデザイン展-自然が宿るライフスタイル」が、いよいよ残り会期わずかとなりました。本展は、緊急事態宣言下で始まり、感染対策を取りながら開館してまいりましたが、おかげさまで週末を中心に多くのお客様でにぎわい、ご好評をいただいております。
今回は、若い方やご家族、お子様連れのお客様がとても多く、初めて当館を訪れたという方々も少なくありません。実は本展は、これまで陶芸に特化した展覧会を中心に実施してきた当館にとって、新たな試みとなる展覧会でした。陶芸も含まれる「工芸」という分野が、広い意味で、「生活」と「芸術」を結びつけるものであるという観点から、もう少し視野を広げて、陶芸だけでなく幅広い美術工芸品をご紹介することで、もっと多くのお客様に当館を知っていただきたい。さらには、当館の位置するこの「丹波焼の里」の素晴らしい環境をぜひ、ご体感いただきたい、との思いから企画に至りました。
本展は、フィンランドが、1930年代から1970年代にかけて、自然の素材やモチーフを活かした美しいデザインを取り入れることで、モダンでありながら、自然に寄り添った独自のライフスタイルを確立し、デザイン国家として国際的な評価を得るに至った変遷をご紹介しています。その原動力となったのは、今も世界的に知られるフィンランドの建築家、デザイナー、芸術家たちの活躍でした。
1930年代、首都ヘルシンキの人口が急激に増加し、新しい住宅の需要が高まると、国際的な機能主義の流れもあり、コンパクトでも機能的かつ快適な空間を求められました。家具や生活用品にも機能的でシンプルなデザインが取り入れられますが、建築家のアルヴァ・アアルト(1898-1976)が考案した挽き曲げ技法による木製家具は、自然の素材やモティーフを活かしたモダンデザインの先駆的な仕事でした。
また、アルヴァの妻であるアイノ・アアルト(1894-1949)がデザインしたプレスガラスによる《ボルゲブリック》シリーズをはじめ、カイ・フランク(1911-1989)がデザインした陶磁器の《BAキルタ》シリーズなどに代表される機能主義のテーブルウェアは、使いやすさから収納方法に至るまで、徹底的に機能を追求することはもちろんのこと、量産しやすいフォルムや装飾を工夫してデザインされ、フィンランドの家庭で長きにわたり愛され続けています。
1950年代、機能主義を離れて独自のスタイルを確立していったフィンランドのデザイナーたちが、ミラノ・トリエンナーレで次々と受賞を重ね、タピオ・ヴィルッカラ(1915-1985)、ティモ・サルパネヴァ(1926-2006)、トイニ・ムオナ(1904-1987)、ドラ・ユング(1906-1980)らによるガラスや陶磁器、テキスタイルが大きな脚光を浴びました。フィンランドの自然に触発された美しい曲線や、有機的なフォルムは、新しいデザインのイメージを印象づけるものでした。