神戸市北区で2017年、祖父母や近隣住民ら5人を殺傷したとして、殺人や殺人未遂などの罪に問われた無職の男性被告(30)を無罪とした神戸地裁の裁判員裁判判決(11月4日)について、神戸地検は16日「被告の心神喪失状態を認定した判決には重大な事実誤認がある」として控訴した。控訴期限は18日だった。
被告は2017年7月16日、同居する祖父母(いずれも当時83)や、近隣に住む女性(当時79)を包丁で刺すなどして殺害したほか、母親(57)や近隣の別の女性(69)にもけがをさせたとして起訴された。
控訴を受け、遺族・被害者が取材に応じ、心情を語った。<全文掲載>
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■死亡した女性(当時79)の長男と長女
控訴の連絡を聞き、ひとまず安心しました。
一審の判決は、一人の鑑定医の意見を全面的に採用してそれに従うだけの内容で、裁判所としての判断があったようには思えませんでした。控訴審では、司法として踏み込んだ判断をいただけるよう、お願いしたいです。
そしてこの先、模倣犯が出ないよう、このような凄惨な事件を安易に無罪にすることがないよう、厳しい判断を望みます。
■負傷した女性(69)
控訴期限が近づく中、やきもきしながら過ごしていましたが、控訴の報告を受けて、まずはほっとしています。
たった二人の鑑定医の意見を比較して、無期懲役か無罪かを判断するという方法も、その判断の中で被告人が面接に応じたかどうかを重視するという判断のあり方も、どうしても納得がいきません。
控訴審では、別の専門家の意見を聞いていただき、本当に責任を問えないのかを、どうか被害者がいるということを忘れずに、慎重に判断してくださることをお願いしたいです。
無罪判決の後、被告人がどこでどのように過ごしているのかを知る術がありませんでした。精神疾患の影響でこれだけむごい事件を起こした被告人が心神喪失を理由に無罪になった途端、どれだけ病状が回復したのかもよく分からないまま、すぐに釈放され、その後は被害者や地域には全く情報が入ってこず、被告人本人の自制をひたすら信じるしかないという日々を強いられました。責任能力も釈放も法律で決まっているから仕方がないのかもしれません。
しかし、当事者としては、簡単に割り切れるものではありません。
控訴審の結果がどうなるかは分かりませんが、今後どこかで同じような事件が起きる可能性はゼロとはいえません。その時に同じ苦しみが生まれないよう、社会全体で議論がなされることを願っています。